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コロナ禍でネット売上が10倍に。福島の良いものをもっと世に出したい【ふくしまのお肉やさん】
福島市でオンライン販売に取り組む事業者特集 Vol.6
少しずつ復調してきたものの、まだ先の見えない飲食や観光など直接人とかかわる地域密着型のオフラインビジネス。
福島市観光ノートでは、その状況を乗り越えるヒントとなるよう、地域産品のオンライン販売に取り組む事業者様を特集しています。
【vol.1】「パイの奪い合いではない」新たな販路に挑戦〜ふるさと納税返礼品事業者【株式会社幸青果(みゆき)様】
【vol.2】朝ドラを機に「三方よし」精神で地元事業者の販路を開拓【エールギフト西形商店】
【vol.3】「カレーをコミュニケーションに」3つのスタイルでカレーを提供する【笑夢(えむ)】
【vol.4】震災後に造園業から転身。ふるさと納税を媒体に「べにこはく」ジュースを製造販売【ふくしま果樹園】
【vol.5】完熟の美味しさをそのまま瞬間冷凍した【ももふる】で福島の魅力を伝え続ける
第6弾は、食肉の卸売加工や小売を手掛ける「合同会社LIBエンタープライズ」の代表 渡邉 晃良さんへのインタビューをお届けします。
同業種をターゲットにした事業展開
―事業内容とコロナの影響について教えて下さい。
メインの事業は、同業種や工場など加工をしている企業に向けた卸売です。カレーをつくる工場向けであれば、牛肉をコロコロに切って納品するようなイメージです。飲食店へはそもそも卸していなかったこともあり、コロナ禍での打撃は少なかったですね。
取引先の中でも、この1年で特に好調なのはドラッグストアです。生鮮がかなり伸びています。
―なぜ、同業種を事業のターゲットにしたのでしょうか。
事業の背景には、高齢化、人材不足、後継者不在という課題があります。同業種の約8割は後継者がいない状況です。
人材が揃わないと、今まで会社でやっていたことが負担になってくる。それであれば、外注で固定費をかけずにやった方が良いのではないかと考えました。狙ったわけではありませんが、必ずそういう世の中になっていくだろうと思い、違う切り口で参入しました。
コロナ禍で、ネットの売上が10倍に
―ネットショップの売上には、変化がありましたか。
ふるさと納税を始めたタイミングで、ネットショップも開設しました。コロナ禍で個人の購入が大きく伸び、昨年春の緊急事態宣言後に売上は10倍近くになりました。「こんなに注文が入るの!?」と驚きましたね。SNSで多少は広報をしましたが、広告費はまったくかけていません。
―人気商品について、教えて下さい。
ネットショップの売れ筋は、普段使いができる豚肉です。売上全体の8割を占め、焼き肉、しゃぶしゃぶ細切れなどの需要が高かったです。
特徴的だったのは、購入者と受取人が違うケースが多かったことです。福島で親御さんが購入し関東のお子さんに送っていたのかな、と推測しています。地元に帰りたくても帰れない方が、本当にたくさんいましたよね。ふるさと納税も同じようなケースが多かったです。
―ネットショップ開設を検討している方へ、アドバイス等があればお願いします。
ネットショップは簡単に始められますが、中途半端に始めるなら絶対にやらない方が良いです。儲かりません。全部、自分たちでやらなければならない。ある程度、覚悟は必要だと思います。
これまでに様々なサイトを使ってみましたが、ヤフーに落ち着きました。出店手数料やランニングコストがかからず初心者でもやりやすい。担当もついているので色々教えてもらえます。
ネットショップに将来性はあるので、他の事業で出た利益を回してでも必要だと思います。
開設以来、ずっと投資し続けているので、あとは会社としてどれだけ耐えられるかですね。
何のための、ふるさと納税か
―ふるさと納税は、どのような思いで出品しているのでしょうか。
ふるさと納税では福島牛を出品していますが、非常に手応えを感じています。
自分たちがやることは、基本的に発送だけです。注文が来て足りない部分を生産して発送するだけなので負荷が少なく、送料負担もないので売上(利幅)が大きい。ふるさと納税が一番やりやすいですね。周りの事業者にも「本当にやった方が良いよ!」と自分が宣伝しているぐらいです。
ふるさと納税は、ネットショッピングではありません。安い商品を目玉に引っ張って、ではなく、福島市のPRをして好きになってもらい納税してもらう、というのが本来の筋です。
福島市で使えるお金が増えれば、できることも増える。例えば、起業したいという若い人のために投資するような使い途です。何かしらの変化が起きて、事業者にもきっとメリットがある。そういう期待も込めています。だから、みんなでふるさと納税を頑張ろうよ、という気持ちですね。
商売は、お客様と従業員がいないと成り立たない
―経営者として、日頃から意識していることを教えて下さい。
従業員と接する時に大切にしていることは、家族感覚。会社の代表だからって、社長と呼ばれたくないんです。商売はお客様と従業員がいないと成り立たない。やっぱり、人です。
社長業は楽しいですよ。雇われているより、リスクを背負って自由に決められるスタイルが自分には合っています。小学生の時から社長になりたいという夢があって、前職時代に長く携わっていたのがお肉だったのでこの業種で起業しました。
若い世代に伝えたいことは、「やりたいと思っているなら、やった方が良い!」ということ。
失敗して、人生終わりなわけじゃない。いくらでも失敗してやり直しがきくんだから、やりたいことはまずやってみて欲しいです。
皆で手を取り合い、一緒に考え、生き残る
―今後、さらに力を入れて取り組みたいことを教えてください。
さまざまな業種を集めたマッチングを、これからもっとやっていきたいです。色々な人が集まると、お互いに足りないところを補い合える。皆で手を取り合えば多様なアイデアが出る。ひとりで考えるよりも、絶対に面白いことができると思います。そのことを、もっとみんなに知ってほしい。
ライバルなんて言ってる場合じゃありません。業者間の壁を壊し一緒に取り組んだ方が、売上は伸びる。それをこの数年で経験しました。そうしないと、これからは生き残っていけないと思います。
コロナの影響で最近はできていませんが、同級生の経営者と月に1回集まって、仕事をお互いに回しあったり新しいことを始めたりしています。漫画『ワンピース』のように仲間を増やしていくイメージですね。
―最後に、メッセージをお願いします。
儲けることは二の次、三の次。大切なことは「福島の良いものを、もっと世に出す」こと。まだまだ全然足りていません。自分の会社の利益にならなくても、他の会社の売上になるなら何でも手伝っています。課題は山積みですが、色々な人を巻き込んでどんどんチャレンジしていきたいです。
ひとりで頑張っても、福島はよくならない。みんなで頑張って、一緒によくしていきたい。いつまでも原発の福島といわれたくないんです。
美味しいものやおすすめの観光スポットもたくさんあります。福島の人たちが楽しそうに発信すれば、自然と人が集まるのではないかと思います。
(取材/文:三廻部 麻衣)