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平安時代から1100年続く神事「金沢の羽山ごもり」を見てきました
金沢黒沼神社で受け継がれてきた女人禁制の祭りの中で、唯一公開されている「ヨイサの儀」を取材
東北自動車道「福島松川スマートIC」の近く、国道4号から少し入った田んぼが広がるのどかな風景の中に、鳥居から続く杉並木とこんもりとした森が。そこに松川町金沢(かねざわ)の氏神さま「金沢黒沼神社」が鎮座しています。福島市のパワースポットとしてご存知の方も多いのではないでしょうか。
金沢黒沼神社では毎年12月、平安時代から1100年もの長きにわたり受け継がれてきた女人禁制の神事「羽山(はやま)ごもり」が行われています。3日間の神事のうち、初日に行われる「ヨイサの儀」だけが女性を含む一般人の見学が許されていて、その他は非公開とされている神聖な祭りです。
「羽山ごもり」とはいったいどんな神事なのか、見学可能なヨイサの儀の一部始終を見てきましたので、写真とともに詳しくご紹介します!
福島のパワースポット「金沢黒沼神社」
古事記の一節にも名を残す黒沼神社は、鎮座約1300年と伝えられ、日本武尊(ヤマトタケルノミコト)、沼中倉太珠敷命(ヌナクラノフトタマシキノミコト・三十代目天皇 敏達天皇)をお祀りしています。
醍醐天皇によって制定された「延喜式(えんぎしき:平安中期に編纂された法典)」の中の「神名帳(じんみょうちょう:延喜式によって官社に指定されている神社の一覧)」に信夫五社の一社であると記されている、由緒ある神社です。
また、2023年秋頃から翌2024年の初めにかけて、白麒麟と黒麒麟がおられるパワースポットということで、SNSなどでも話題になりました。
金沢黒沼神社の御神紋は、十六菊紋、五三桐紋、そして交叉剣紋の3つ。御神紋が3つというのも珍しいそうですが、それぞれ皇室と縁が深く、特に「交叉剣」は朝廷の武運祈願の御神紋で全国でも数少ないとのことです。
羽山ごもりとは
「ヨイサの儀」で知られる、「羽山ごもり」。原始的な日本人の信仰の姿がそのまま受け継がれていることから、昭和55年に国の重要無形民俗文化財の指定を受けました。
羽山ごもりの由来は、平安時代に遡ります。神社の近くに大きな蟹や大蛇が生息し、農作物や家畜、そして人々にも害を与えていたため、周囲の7軒が力を合わせて退治しようということになり、一同が黒沼神社にこもり、神のお告げを得て退治に成功したことから始まった祭事と伝えられています。
大きな蟹がいたことから当時このあたりは蟹沢(かにさわ)と呼ばれており、それが転化して現在の「金沢(かねざわ)」という地名になったともいわれています。
「羽山ごもり」は、旧暦の11月16日〜18日に、井戸水で朝と夕に水垢離(みずごり)を取り身を清めた男衆が、神社の「こもり殿」で3日間寝食をともにし、初日の夜に行われる「ヨイサの儀」、3日目の早朝には「お山がけ」で羽山のお山さまに向かいご神託を受けるという神事です。神様から翌年の吉凶や、地元金沢をはじめ日本や世界のこと、家族のことなど「のりわら」と呼ばれる人に神様を降ろし、すべて細かく教えていただくのです。
戦時中やコロナ禍など、厳しい情勢の中でも欠かさず続けられてきました。
今年2025年が、羽山ごもり1100年の節目の年。10月頃に「千百年祭」の開催が予定されています。
昔、食糧事情が悪かった頃は、祭り以外では白い米が食べられなかったので多くの男衆が祭りに殺到したのだとか。そのため「参加できるのは長男だけ」と制限を設けたという、そんな時代もあったそうです。
元々は7日間続く祭事でしたが、今は会社勤めの方でも参加しやすいよう、週末にかかる3日間で開催されています。
今回(2024年)は30名ほどの参加者がいて、下は大学生から、上は80歳をこえる方も。参加者は羽山ごもりのあいだは自宅に戻ることはできず、外で食べてもいけません。
五穀豊穣を祈る、勇壮な「ヨイサの儀」
水垢離(みずごり)
「羽山ごもり」の神事の中で、唯一公開されているのが、初日の夕方4時頃から行われる「ヨイサの儀」。私たち取材班が少し早めに到着すると、参加者の皆さんが交代で水垢離を取っているところでした。12月、ダウンの上着が必要な気温の中、裸で井戸水を浴び、身を清めます。
「だいごーり!」という気合いのかけ声が聞こえます。これは「代垢離」で、家族の代わりとなって人数分の水を浴びるのだそう。井戸水は水温が変わらないので、冬はむしろ温かく感じるのだと言われましたが……、やはり見ているだけで寒そう!
いろり清め
「こもり殿」の中では、囲炉裏の周りにしめ縄が張られ、火を熾し、煮炊きの準備がされ、その後「いろり清め」のお祓いが行われます。
神事の取材にあたり、宮司のご家族に「してはいけないこと」を最初に教えていただきました。
- こもり殿の奥におられる神様にお尻を向けてはいけない
- しめ縄が張られた神域に入ってはいけない(身を清めた男子しか入れない)
- 履き物を脱いで上がるときは、履き物のかかとを手前に向けて揃えてはいけない(神様にお尻を向けることになるので)
これらに注意すれば、神様にも怒られず、こもり殿に上がっての見学が可能です。
精進料理
食事は、囲炉裏で米を炊き、白菜や大根など地元で穫れた野菜を使った味噌汁を作り、伝統的な作法に則って全員でいただきます。神事のあいだは肉や牛乳など、いわゆる「四つ足」を口にしてはいけない決まりです。
あるとき、この掟を破って四つ足を口にしてしまった参加者がいたそうです。そのときは神様の怒りに触れ、鍋の中のご飯が真っ赤に染まったという話もあったのだとか……。
お米が炊き上がり、味噌汁も出来上がると、皆で食事となります。お茶碗にてんこ盛りのご飯と、白菜のお味噌汁、漬物という精進料理。あとはお酒の振る舞い。ご飯などのおかわりはできますが、これだけだと男性はおなかが空いてしまうかもしれませんね。
皆さんが食事を取るお箸と、取り分け用の菜箸は、木の枝で作られたお箸が使われていました。
ヨイサの儀
夕食が終わるといよいよ「ヨイサの儀」です。皆さんが着替えを始め、褌姿で出てきます。
「ヨイサの儀」とは、田植えから収穫までの一連の流れを表すことで、五穀豊穣を祈る神事です。
まず、太鼓を鳴らしながら囲炉裏を中心に部屋を1周。これは雷鳴です。そのあと水を撒いて回るのは、雷のあと田に恵みの雨が降る様子を表しています。
続いて、三人一組で腕を組み、部屋を走り回ります。これは馬が歩くことで土を起こしている様子を表現しています。
いよいよ「ヨイサの儀」のハイライト!
四人一組で騎馬を作り「ヨイサア!! ヨイサア!!ヨイサア!!」と左右から勇壮に揉み合います。よく揉み合うほど、よく土が耕され、豊作になるといわれています。
この騎馬が揉み合う様子は、こもり殿の外で待っていた見学者の方たちによく見えるよう、窓を開け放ったこもり殿の廊下側で行われ、目の前で約30人の褌姿の男衆が揉み合う様子は勇壮で迫力があります。
このもみ合い、3回行われるのですが、最後の騎馬2騎のうちの1騎は担がれている人にしめ縄がかけられ、手には鈴を持っています。こちらが神様役で、威勢の良い揉み合いの後、神様のほうが押し切って勝つ(=豊作)ことになっています。
観客の皆さんとともに盛り上がったあとは、お待ちかねの「みかん撒き」。このみかんを授かると無病息災、一年間風邪を引かずに過ごせると言われています。
翌日は餅をつき、神棚に上げたあと、小さく切って氏子の皆さんにお分けするそうです。
三日目の最終日には、羽山のお山に上ってご神託を受ける「お山がけ」が行われます。こちらは非公開で、見ることはできません。
時代に合わせて変化しながら伝統を守る
家敷
神事を取り仕切り、参加者の方々の面倒を見てくれるのは、家敷(かしき)と呼ばれる9人の方々。
地域の「上・下・中・北」の4組からそれぞれ2名ずつ選ばれて計8名、そこに前年の「おっかあ」が残って9名となります。家敷は9年で卒業ですが、もちろん参加者として残ることもできます。
炊事役は、羽山ごもりの経験に応じて「嫁」「おっかあ」「ばっぱ(婆)」「大ばっぱ(大婆)」と役が上がっていくのだそうで、最初は「嫁」からスタートです。ご飯のおかわりなどは「おっかあ」の担当。火の熾し方や食事の準備にまだ慣れていない嫁には、ばっぱや大ばっぱたちからの指導が。
羽山ごもりのしきたりは、こうして先輩から代々受け継がれていきます。
時代に合わせて変化
しかし近年、参加者は減ってきています。お話を伺った、羽山ごもり 大世話人代理の伊丹忠夫さんによると、昔は旧暦で神事を行っていたため、事前の準備と後片付けまで含めると7日間かかっていました。
地域の祭りなら……と長期の休みが許された時代もありましたが現代では難しく、このままでは会社勤めの若者などは参加できなくなってしまうため、2024年は週末に合わせようと、ご神託を受け日にちを変更したのだそうです。
時代に合わせて少しずつ変化しながら、大切な伝統を守っているのです。
自分の子どもが小さかった頃は地域の祭りや行事に参加したこともありましたが、当時は正直、大変だな、ちょっと面倒だな……と思ったこともありました。
しかし月日が流れ、参加する機会も見に行く機会もなかなかない今、このように昔から受け継がれてきた地域の祭りや神事に接してみると、文化を守るということはとても大切なことで、いつまでも続いてほしいと心から願っています。もっと早く気づいていればよかったのですが、これからは積極的に見に行き、参加できるものは参加したいなと思いました。
読んでくださった皆さんも、ぜひお住まいの地域のお祭りに参加したり、地方色豊かなお祭りを見に出かけてみてください。「羽山ごもり」も見にいらっしゃいませんか?
参加したい人・見学したい人
福島市金沢地区在住でなくても、水垢離を取れる男性であれば誰でも参加可能とのこと。実際に他県からの参加者も結構いらっしゃるそうですよ。1100年続く神事の一員として連なるロマンがありますよね。
羽山ごもり、厳しくもあり神聖な儀式なのですが、儀式以外の部分ではどこか「大人の修学旅行」的な雰囲気も垣間見え、参加している皆さんがとても楽しそうなのが印象的でした。
実際に参加したいという男性はぜひ、金沢黒沼神社の宮司 半沢康浩さんにお問い合わせください。
ヨイサの儀を見学したい方はどなたでも見学できます。
2月2日の節分祭、その他行事のお知らせ
2025年2月2日(日)には「節分祭」が行われ、ご祈祷後に豆まきが行われるとのこと。
また、4月の第一土曜・日曜には「例大祭」が開催され、神輿を担いで金沢地区を練り歩きます。
年間の祭典と行事は、金沢黒沼神社の公式ホームページやInstagramでご確認ください。
金沢黒沼神社 詳細
名称 | 金沢黒沼神社(かねざわくろぬまじんじゃ) |
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住所 | 〒960-1246 福島県福島市松川町金沢宮ノ前45 |
TEL | 024-567-5005 |
HP/SNS | 公式ホームページ |
アクセス | 【車】東北自動車道「福島松川スマートIC」より約10分 【電車】JR東北本線「松川駅」よりタクシーで約5分 |