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果樹加工勉強会参加者インタビュー Vol.3|株式会社ラポール泉 仲沼亜希さん
勉強会での学びが1次加工の事業化へ踏み出すきっかけに
2024年9月~11月まで全3回開催された「果樹加工勉強会」。福島市内5事業者が規格外果物を使ったピューレの活用方法を模索し、各事業者ごとの課題や展望に合わせた商品を開発するという取り組みです。参加事業者の思いや背景を深掘りするべく、3事業者へインタビューを実施しています。
インタビュー三人目は、市内泉で就労継続支援B型事業所「アットホーム」を運営する「株式会社ラポール泉」の職業指導員 仲沼亜希さん。
10~40代まで12名ほどの障がいを持つ利用者と一緒に、焼き菓子などの菓子作りをしています。勉強会では利用者の工賃向上に繋がる商品開発を、誰向けにどのような商品を作ればいいかを模索されていた仲沼さんに、商品開発秘話、学びの振り返り、今後の展望などのお話を伺いました。
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目次
工場での菓子製造・販売を通じて就労支援を行う福祉事業所「アットホーム」
2018年5月に開所し、今年で6年目を迎える就労継続支援B型事業所「アットホーム」は、身体的・知的・精神的に障がいがあり、企業に就職することが難しい方のための施設です。
職員が利用者と共に焼き菓子やチョコ菓子などの菓子を製造し、同じ敷地内にある「アットホーム sweets shop」で販売することを通じて、就労支援を行っています。
卵を使用しないレシピを基本に、小麦粉の代わりに米粉を使ったお菓子や、バター不使用のお菓子など「みんなで楽しく食べられるお菓子」を作ることを大切にしています。
ラポール泉の山岸浩社長は、「『福祉菓子だから安い』という世間の常識を変えたい」と考え、工場の設備投資を行い、有機JAS認定(2019年度)を取得。衛生管理も徹底し、一般的な工場と遜色ない菓子製造工場を整備しました。
指導員の仲沼さんは、前職で市町村の6次化総合戦略などの事務方を担当していたときに、現社長の山岸さんとご縁があり、福祉事業所立ち上げの際に入社。お菓子作りの専門知識もなくゼロからのスタートだったため、東京の有名店のパティシエから指導を受け、手探りで商品開発や利用者の指導などに当たってきました。
異業種事業者との交流が1次加工に乗り出す後押しに
——果樹加工勉強会に参加したきっかけを教えてください
取引先の市内の農園さんとの会話で、大量に廃棄されたり、叩き売りみたいな安値で取引される規格外果物がたくさんあることを知り、衝撃を受けました。
「福島にいるからこそ、規格外果物を付加価値化して多くの方に知ってもらいたい、弊社の工場で1次加工できれば」と準備を進めていたところでしたが、行き詰まっていたときに今回の勉強会に誘っていただきました。
——果樹加工勉強会に参加していかがでしたか?
みなさんハイレベルで情熱的でした。ついていくのに必死でしたが、福島の果物をどうにかしたいという気持ちは皆さんと同じでしたね。
私は「果物は生が一番。1次加工したら価値が下がってしまう」という先入観があったのですが、松島屋旅館のお客様の中には、旬以外の時期も福島の果物を味わえることを期待される方がいらっしゃる、ということが新しい発見でした。
これまで旅館やレストランなどとのつながりはなかったですし、お客様の反応を聞く機会もなかったのでとても新鮮でした。あえて違う業種が集まることで、まったく新しいアイデアが生まれることを実感し、私の事業も方向性が広がりました。
——1次加工品(ピューレなど)のメリットをどのように考えますか?
規格外の生の果物が大量に出ても一度に処理しきれないことが多いですが、ピューレなどに加工して冷凍しておけば劣化を防げます。必要な事業者へ販売もできますし、自分が使いたい時に解凍して商品に利用することもできます。この工場ならそれが可能で、1次加工のメリットかなと思います。
——果樹加工勉強会での一番の学びは?
参加事業者と意見交換をする中で、製菓店や旅館、レストランなどで1次加工品にもちゃんと需要があることを確認できたことです。
元々、ご縁のある農家さんとも規格外果物の1次加工の話はしていましたし、今回の勉強会に参加する前にも果樹加工のアドバイザー派遣を受けて独自に取り組んではいたのですが、肝心の販路がまったくイメージできていませんでした。
勉強会に参加した後は「うちでも1次加工をやってみよう」と安心して踏み出すことができました。商品も形になり、販売の具体的なイメージも持てるようになりました。
10月に試作品の発表、11月にはお披露目会、翌年春には販売ブースを設けていただけるという目標があることも良かったです。発表の場がなければ、日々、利用者の支援に追われて、なかなか事業化に踏み出せなかったと思います。
——他事業者との交流はありましたか?
11月に、キッチンカプリッチョを会場に開かれた勉強会のオフ会に参加したのですが、オーナーの増川さんの料理やお菓子のレパートリーの多さに驚きました。料理人の視点で果物と食材を組み合わせたり、お客様目線で盛り付けや提供の仕方に工夫があったりと、ライブ感があってワクワクしました。
私の事業も消費者目線で考えたとき、商品を手に取ってもらうためには目を引くパッケージデザインも大事だな、と改めて思いました。
“利用者ファースト”で商品開発工程を組み立てる
——勉強会で開発した常温保存できるゼリーについて教えてください
第3回勉強会では、3種の桃ピューレ、りんごピューレ、規格外ぶどうピューレのゼリーをパウチに詰めてお披露目しました。常温で保存可能で、冷凍するとシャーベットのような食感も楽しめます。
今年の春に、ビックパレットふくしまの特設コーナーでりんごのゼリーをメインに期間限定で販売する予定です。販売会でお客様の反応を見て、さらにブラッシュアップをして、来年の夏からは主力商品にしていきたいです。夏季の収入が安定すれば、施設利用者の工賃アップにも結びつけることができます。
ちなみに、第2回勉強会で試作した生クリームとピューレをミックスしたデザートは意外に美味しかったので、夏のイベント限定品としてマルシェへの出品を検討しています。
——第3回の商品発表後、改善したところはありますか?
果物皮ごとのピューレをゼリーにすると皮の食感が口に残るため、皮を除いたピューレの使用を検討しています。12月中旬頃に果物の自動皮むき器が導入できるため、利用者に機械操作を教えて、できる人と苦手な人で役割を分担し、工程や人員配置を考えます。
また、第2回勉強会で講師の齋藤さんがピューレ加工の実演をしてくださったコールドプレスジューサーは、果肉と果汁を分けられますし、味も色味もブレンダーを使ったものより品質が良かったので、ジューサーの購入も考えています。
——商品開発で苦労したところは?
これまでは主に焼き菓子をやってきて、分野が違うゼリー系の商品づくりは初めてだったので、計画通りに進まないことが多かったところです。
果物は早く処理しないと色が変色するためスピード勝負。商品開発の難しさに加えて、利用者の得意・不得意も考えて工程を組む必要もあります。一連の流れをどう分割して、マニュアル化していくかが大事です。
大量ロットを処理することは難しく、小ロットで発注していただけるところとしかお取引はできませんが、いかに持続可能にしていけるかを模索しています。
地域に開き、つながる福祉事業所を目指して
——今後の展望を教えてください
まずは利用者の工賃アップを目指したいです。ハプニングもさまざまありますが、利用者たちは日々、まじめにていねいに取り組んでいます。
「福祉だから」と色眼鏡で見られるのはとても悲しいことです。利用者に苦手意識を植えつけず、小さなことを一つずつ「できるんだ!」というモチベーションにつなげて、安定的に作業が続けられるように支援していきたいですね。
「福祉」というと、あまり明るいイメージはないかもしれません。だからこそ、私たちはいろんなところに出ていって、こだわりをもってお菓子づくりをしていることや、福祉事業所だからこそできるていねいな作業があること、こんなに頑張っている人たちがいることを、多くの人に知ってもらいたいです。
県内でさまざまなかたちで作業、製造、生産されている方が集まり、商品を販売する「あっとマルシェ」も年に2回開催しています。マルシェや農福連携などの連携事業を通して、皆さんとつながれる、きっかけづくりになれる事業所でありたいと思っています。
おわりに
仲沼さんは、ちょうど良いタイミングで果樹加工勉強会に参加でき、安心して1次加工に踏み出すことができたことをとても喜んでおられました。勉強会を企画した福島市観光コンベンション協会の一員として嬉しく思います。
果樹農家や事業所の利用者の待遇向上のため、サステナブルな仕組みづくりを目指す仲沼さんの今後の活躍を期待しています。
期間限定販売会情報
ラポール泉(アットホームsweets shop)の規格外果物を使用した常温保存できるゼリーは、今春にビックパレットふくしまの特設コーナーで期間限定販売予定です。詳細が決まり次第お知らせします。
※販売場所や販売時期については変更となる場合があります。