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果樹加工勉強会参加者インタビュー vol.1|ニックファンズ 齋藤久志さん
地域の繋がりを強めて「もったいない運動」の輪を広げたい
これまで2回にわたってレポートしてきた「果樹加工勉強会」。市内5事業者で規格外果物を使って試作したピューレの活用方法を模索し、各事業者ごとの課題に合わせた商品の開発を目指すという取り組みです。勉強会や意見交換を通して事業者同士の結束も日に日に強まっています。
どんな事業者が、どんな思いをもって勉強会に臨んでいるのかを多くの人たちに知ってもらうため、これから3回にわたって参加者へのインタビューを実施していきます。
お一人目は、果樹加工勉強会の講師で、令和6年度ふくしま地域産業6次化イノベーターとしても活躍する、株式会社ニックファンズ 齋藤久志さん。商品開発への思いや、講師として勉強会に参加した感想、今後の展望などをお聞きしました。
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目次
20年におよぶバーテンダーの知見を活かして6次化商品を生み出す
福島県出身の齋藤さんは、⾼校卒業後にバーテンダーの道に進み、各地で修⾏を重ねた後、2005年に福島市の街なかで「Fruits&Sweets Bar Suika」を独立開業。以来、福島のくだものを使ったフルーツカクテルなどのお酒を提供しています。
ドイツで日本人ワイン醸造家が手がけるリースリングワイン「639」の輸入販売や、ドイツのレストラン事業のプロデュースなども行うほか、2022年には福島市松川町に移転し、食品加工場が併設されたバー「Craft Labo&Factory KANPAI BAR(カンパイバル)」をオープン。
規格外のモモやリンゴなどを使用した「フルーツクラフトコーラ」「ノンアルコールサングリア」などの商品を開発するかたわら、市内農家の6次化商品の小ロット製造や支援なども行っています。
基本を徹底する姿勢を大事に。社会課題を組み合わせて商品を開発
——フルーツシロップの開発経緯を教えてください。
私はバーテンダーとして20年近く、福島県産の果物を使ったカクテルなどのお酒を提供してきました。お客様に楽しんでいただくため、フレッシュな果物を別の食品と合わせたり、フローズンにしたり、さまざまな方法を模索する中でシロップづくりの発想は生まれました。「自分のバーの酒棚に自社商品を並べたい」というバーテンダーとしての思いも昔から持っていました。
——シロップに規格外の果物を活用しようと思ったきっかけは?
バーを経営する中で、仕入れ先の果樹農家から「生食だけだと単価が上がらない」「規格外の商品が多くて困っている」という話をよく聞いていたんです。なんとか力になりたかったのですが、僕のバーで消費するだけでは全然追いつきませんでした。
商品開発と、地域課題の解決をどう絡めていくか。そう考えたとき一番やりやすかったのが、果物をシロップに加工することでした。
——今後はどのような商品を開発予定ですか?
現在、県内外の自治体向けに、規格外の果物を使った防災用備蓄シロップを開発しています。
災害時は食料事情が困難である一方で、毎日捨てなければいけない規格外の果物があるというアンバランスな状態を同時に解消したいと考えました。
遮光性のあるパウチ容器で長期保存が可能で、発災時には水で溶いてすぐに飲むことができます。避難所で配られるおにぎりやカップラーメンだけでは不足しがちなビタミンCなどの栄養素を補ってもらうことが狙いです。
——防災用品は需要がありそうですね! 商品化のアイデアはどこから生まれるのでしょうか?
「開発」というとハードル高く感じるかもしれませんが、世に出ている商品のほとんどは既存にあるものを組み合わせているだけ。防災用備蓄シロップも、「防災」と「規格外果物」、どちらにも課題があり、その2つを組み合わせただけです。新商品といってもそんなに難しく考える必要はないんですよね。
——齋藤さんが商品開発で大事にしていることはなんですか?
基本を徹底することでしょうか。一人でやってると手を抜くこともできてしまうのですが、衛生管理、原料の管理も含めて、どれだけ愛情を持って真摯な気持ちで作れるか。いくら時間がかかろうと、基本の基本を大事に、常にていねいにやることだけは譲れません。
勉強会での異業種事業者との交流は大きな一歩に
——今回、果樹加工勉強会の講師を担当してみていかがですか?
異業種の事業者が集まったことによって、課題や展望を共有したり、解決法を話し合ったりでき、とても有意義な時間でした。
講師として話すことで僕自身の考えも整理できますし、普段交流のない異業種同士で話すことで新たなアイデアがどんどん生まれてくればいいなと思っています。
——新しい発見はありましたか?
僕自身もシロップなどを作っている事業者でもあるので、違う業種の方の発想や視点は今後の商品作りに活かせると思いました。
果物の加工の向き不向き、加工に対する姿勢といったパティシエ鈴木さんの専門的視点や、福祉事業所利用者のために作業をマニュアル化することを念頭に置いて商品開発を進めるラポール泉の仲沼さんの視点などは、すごく新鮮に感じました。
——さまざまな議題が上がった中で一番重要だと感じた議題は?
出口戦略が重要だと思います。福島のものを、いかに県外や海外に売っていくか、というところです。
ブランディングや売り方は誰もが悩むところで、チームを組んで同じ一つのブランドでやっていくのか、松島屋旅館さんの夕食のコースに使ってもらうのか、新たな販路を開拓していくのか。いくつも選択肢が生まれてきて、それらを共有できたことがよかったです。
「もったいない」を起点に地域のつながりの輪が広がってほしい
——加工勉強会が終わった後、福島市がどのようになっていくといいと思いますか?
今回の勉強会のように、地域の一つの枠組みとして「もったいない運動」の輪が広がっていってほしいですね。理想は、この勉強会に集まった方だけでなく、地域全体で農家や一次産業を守っていけたらいいなと思います。
例えば、福島市のゴミ排出量は全国平均の1.2倍となっています。規格外として捨ててしまっている農作物の活用方法をみんなで考えて実践していけば、ゴミの量もおのずと減り、食料自給率も上がっていくんじゃないかな。この勉強会は、そういった動きにも貢献していけると思っています。
——なるほど、それには地域のつながりが大事になりますね。
そうですね。白河市の米農家の周辺では、輸入コストや肥料の値上がりを受けて、牛農家から牛ふんをもらって堆肥にする昔の農法がまた復活しているようですが、これは地域のつながりがなければできないことです。
今はSDGsなど叫ばれていますけど、そもそも日本人は、昔ながらの環境にやさしい方法を代々受け継ぎ実践していました。そういったものを見直して、事業にも取り入れて継続していくのが理想ですね。
——もったいない運動が広まっていくには何が必要だと思いますか?
規格外=悪いもの・安いものという認識を変える、消費者の意識改革が必要だと思います。
見た目や形がいびつだったり少し傷があったりしても、美味しく食べられるなら価値はそれほど変わらないはず。子どもの食育も大事ですが、現代では大人の食育こそ必要だと感じています。
私たち消費者も、できることを一つずつ
インタビューを終えて「農家さんや一次産業を地域で守っていきたい」という齋藤さんの言葉がとても印象に残りました。
農家さんの絶え間ない努力や苦労があってこそ、私たち消費者は安心安全の食料を手にできていることを忘れてはいけませんね。消費者の意識が変われば、地域の農業を取り巻く課題も、少しずつ良い方向に向かっていくのかもしれません。
次回は、飯坂町でイタリアンレストランを営む「キッチンカプリッチョ」の店主、増川浩二さんのインタビューを予定しています。第3回目の報告会を終えてから、開発秘話などのお話を伺う予定です。どうぞお楽しみに。
Craft Labo&Factory KANPAI BAR(カンパイバル)店舗情報
住所 | 福島市松川町字天王原98 |
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TEL | 024-563-6668 |
定休日 | なし(年中無休) |
営業時間 |
金曜日 土曜日 営業時間備考 |
駐車場 | あり |
HP/SNS | HP X |