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「規格外の果物を加工し、売れる商品を作る」福島市内の事業者が勉強会を開催

第1回 果樹加工勉強会・意見交換会(9/19)参加レポート

第1回果樹加工勉強会

2024年9月19日、福島市内の事業者が果樹加工について学び、意見交換をする「果樹加工勉強会・意見交換会」が、福島市松川町の「カンパイバル」を会場に開催されました。

9~11月にかけて全3回開催される勉強会を通して、参加者はフルーツピューレを使った自社商品を開発していきます。熱気に包まれた第1回勉強会の様子をレポートしていきます。

「桃の1次加工品があれば」新たな課題に取り組む

勉強会開催のきっかけになったのは、2022年から福島市でスタートした「ピーチホリデイ」事業。この事業では、規格外の桃に価値を付けて循環させることにより、福島市内の果樹生産者・飲食店・消費者の3者の要望や課題を解消する仕組みづくりを進めてきました。

福島市の観光における課題やピーチホリデイの取り組みについてはこちらをご覧ください。

ピーチホリデイも3年目に入り、市内の事業者への認知度も高まる中、新たな課題も見えてきました。
「生の桃以外にも、桃の一次加工品(皮と種を除いて色止めされた桃、ピューレなど)があると、レパートリーも増やせるのに」という声が、多くの事業者から寄せられているのです。

そこで、ピューレなどの一次加工品を作りたい、そしてピューレを使って商品開発をしたいと考える事業者を集め、需要のある、売れる商品を作るための勉強会を開催することになりました。

第1回果樹加工勉強会

講師は、株式会社ニックファンズ代表の齋藤久志さん。勉強会の会場となったバー「カンパイバル」を経営しています。
ピーチホリデイ事業の立ち上げ当初からの参加メンバー店だった齋藤さんに、「福島県地域特産品創出事業」補助金を活用して、マーケティングを意識した果樹加工の試作勉強会をお願いしました。

齋藤さんはドイツでのブドウ作り、ワイン輸入販売などのほか、補助金を活用してご自身のバーに加工場を設けるなど、1次加工に着手する動きをいち早く実行。福島の規格外果物を加工してクラフトコーラ、レモネード、果実のシロップなどを開発してきました。
主な販売先は県内の主要観光施設のほか、首都圏のロフトやツタヤなどの量販店。「福島の顔として興味を持ってもらえるか」という視点で商品を開発しています。

第1回果樹加工勉強会

齋藤さんが開発したクラフトシロップ。積み重ねられる瓶のデザインにもこだわりが。

さまざまな業種の事業者が集結

勉強会には、市内から果樹農家、製菓店、旅館、レストラン、福祉事業者と、さまざまな業種の事業者が集結。顔合わせも兼ねて自己紹介が行われ、各事業者が抱える課題や今後の展望などを共有しました。


松島屋旅館 高橋宏幸さん・美奈子さん

飯坂温泉の「松島屋旅館」は、現在改装工事中です。リニューアルオープンの際は、福島らしい6次化に取り組みたいと考えています。

桃のピューレ 作りたい、使いたい
検討中メニュー ピューレを使った料理をお客様に提供、ピューレを自社パッケージで販売
課題 果樹園で育てる果物の8割は、摘果するか、畑の肥やしになっている現状がある。海外の事例では摘果した桃の実がピーチワインになる。そのような活用方法を福島でも模索したい。
展望 夏のシーズン以外の、冬場に桃を提供できないか。「冬なのに桃が食べられるの?」という感動や驚きにつながる。
旅館リニューアルオープンの際は、厨房とは別に加工室ができるので、加工品に挑戦したい。外部の事業者や果樹に関わりたい大学生にも活用してもらえたら。

あづま果樹園 吾妻静香さん

果物狩りや果物直売をしている観光果樹園です。直売所ではさくらんぼ、もも、なし、りんごなどを使ったソフトクリームやスイーツを提供しています。

桃のピューレ 作りたい、使いたい
検討中メニュー デザートに利用して新メニューを増やしたい
課題 家庭用の果物を販売しているが、特に桃は傷みが早く一晩で販売できなくなってしまう。廃棄する大量の果物をどうにか商品化できないか。現在はジュースしか販売できる加工品がない。
また人手不足のため、自分がスイーツ開発や販売を担当しないと回らない状態。
展望 ある程度加工が済んでおり、手軽に調理でき、年間通して提供できるメニューを開発できれば。
10月頃に収穫できる桃「CX」を育てている。(温度と鮮度を一定にして保存すると、12月のクリスマスシーズンに販売ができるので、通称クリスマスピーチと呼ばれる)去年は気候の関係で良いものができなかったが、今年は期待したい。

キッチンカプリッチョ 増川浩二さん

福島市飯坂町にある、石焼生パスタを提供するイタリアンレストラン。店主の増川さんは、和食、洋食、イタリアン、フレンチシェフを経験しています。

桃のピューレ 使いたい
検討中メニュー 気まぐれ桃のブリュレ風、桃ダンジュムース風、桃レアチーズムース風
課題 山形出身で福島の桃の美味しさにびっくりし、感動した。品種数も多く、桃には可能性があるのに、なぜこの美味しさを発信できていないのか。
展望 桃は和食や洋食とも(中華とも?)相性が良く、どんな料理にもアプローチできる。飲食店は間違いなくオールシーズン桃を使いたいと思っている。どのような持続可能なアプローチができるのかが楽しみ。

パティスリーエクロール 鈴木智絵さん

東京やフランスでの修行を経て、2018年に福島市で製菓店をオープン。福島の食材を使ったケーキ、焼き菓子やコンフィチュールなどを販売しています。

桃のピューレ 使いたい
検討中メニュー ソルベ、ジュレ、ムース、ギモーブなど
課題 洋菓子ではフルーツピューレは外国産の輸入品に頼っている。福島には美味しい桃がたくさんあるのに、廃棄されている桃も多く、もったいない。国産のピューレがあればぜひ使いたい。
展望 純国産ピューレをPRすれば全国的に使ってもらえるようになるのでは。

ラポール泉 仲沼亜希さん

障害福祉サービス事業所で、利用者と菓子製造を行っています。卵を使用せず、福島県産や国産、オーガニック、米粉など素材にこだわっています。

桃のピューレ 作りたい、使いたい
検討中メニュー ゼリー、ムース、チーズケーキ
課題 障がい者施設でお菓子作りをしているが、安い値段でたくさん作るのではなく、桃の加工などで付加価値をつけていきたい。農家さんでロスになってしまう果物があり、1次加工をやっているが収穫ピーク時に手が回らないという話を聞く。
展望 今年2024年から、真空包装機を購入したり、皮むき器補助金申請を出したりとチャレンジをスタート。来年、一次加工が本格化する。なるべく果物本来の持ち味を活かせるよう加工したい。
職員だけでなく利用者さんも使えるような製造機材を導入し、ルールづくりを進めれば、福祉も1次加工に参入できるのでは。

福島市農政部 農業振興課 販売促進係の斎藤靖弘さんからも挨拶がありました。

果物の販売促進や県外セールス、6次化を推進する部署に所属して3年目になるが、山梨など他県の桃の産地に比べて、福島の桃は価格が安すぎると感じている。
福島の桃の美味しさは、食べてもらえれば納得してもらえるが、県外の方に良さを伝えられていないところに課題がある。
私たち農業振興課は、福島の農産物を県外につなぐ役目がある。果樹加工についてみんなで学び、年間を通して届けていくこのような取り組みはとても重要だと感じている。

ピーチホリデイを主催する福島市観光コンベンション協会、5事業者、市役所農業振興課が一堂に会し、意見交換をするのは初めてのこと。それぞれの立場から意見を出し合うことで、課題や展望を新たなアイデアにブラッシュアップしていくことが狙いです。

商品開発にマーケティングの視点を持とう

第1回果樹加工勉強会

講師の齋藤さんは「作る前段階からのブランディングがとても重要になる」といいます。
世の中にはすでに商品があふれているので、「誰に」「どのように」「どんなものを」売るのかを考える必要がありますが、その当たり前のことができていない商品が多いといいます。せっかく商品を作っても、売れなければ事業を続けられません。

齋藤さんが自社でシロップを作ったときには、細かく商品設計をして、飲んでくれる人を明確にイメージしたのだそう。

【齋藤さんが設定した顧客像】
都内在住 37才看護師 マンション4階の一室に居住 年収600~700万
バーに通っていたけどコロナ禍で行けなくなった
家で晩酌するとき、角ハイやチューハイだけでは面白くない
味変できる商品があったらいいな

このように、マーケティングに関する視点を共有するほか、海外の事例も交えながら、白熱した議論が交わされました。

以下、議題に挙がったトピックをいくつか紹介します。
・果物の1次加工の難しさ
・旅館や福祉施設の従業員シフトの見直し案
・果樹園スタッフの冬期雇用のアイデア
・飲食店の待ち時間に、果樹農家の取り組みなどを紹介動画で見せるアイデア
・果樹農家を存続させるために飲食店側ができること

事業所間の困りごとを共有する「ももりんのフルーツたすけっと」

ピーチホリデイを開催していくなかで、各事業者からは「規格外の桃が大量に出て、今日中に取りに来てほしい」「こんなお仕事をもらいたい」といったさまざまな悩みごとが聞かれていました。
そして、実はそれが他の業種にとっては欲しいモノやコトだったりしていることもわかってきました。

それらを見える化させてマッチングできる場所があれば……。そんな考えから「フルーツたすけっと」というサービスが誕生しました。

「〇〇が余っている/足りない」「人手が余っている/足りない」といった困りごとを事業者同士が掲示板上で共有し、業種を超えたマッチングを行うというもの。
事業者間でのやり取りなので値崩れの心配もなく、「情報共有できる場所がないから連携できない」というお悩みを解消できるサービスです。

実際に松島屋旅館の高橋さんは、地元の桃農家さんが台風接近時に早めに収穫した桃を大量に箱で購入したことがあり、その経験が6次化に目を向けるきっかけになったのだそう。

第1回果樹加工勉強会
ももりんのフルーツたすけっと

マッチングお手伝いサイト「ももりんのフルーツたすけっと」のメインビジュアル

会場で「ももりんのフルーツたすけっと」が紹介されると、会場から自然と拍手が沸き起こりました。
今後、このサイトを通じて情報交換がおこなわれ、事業者同士の助け合いが生まれていくことでしょう。

※「ももりんのフルーツたすけっと」は、福島市観光コンベンション協会の会員が利用できるオンラインサービスです。

試作の桃ピューレ3種を配布

今回配布となった、齋藤さんが試作したピューレは3種類。「さくら白桃」2種と「きららのきわみ(黄桃)」のピューレです。

第1回果樹加工勉強会

左から、きららのきわみ、さくら白桃(薄ピンク)、さくら白桃(濃いピンク)

さくら白桃2種は、ピューレにする際の工程が違います。薄ピンク色(写真中央)のピューレは、ブレンダーで一気につぶし瞬間冷凍したもの。濃いピンク色(写真右)のピューレは、ジューサーで実と果汁を分け、再び合わせて瞬間冷凍したもの。工程によってこんなにも色味に差が出るのですね!

甘さと酸のバランス、色味は品種によって違うので、品種ごとにピューレで個性が出せる。ケーキやデザートに使う際、今週はこの品種、翌週はこの品種といった売り出し方も展開できるのでは。品種によってバラバラの糖度は、加糖することで揃えることも可能。製菓の場合はピューレの糖度が揃っていた方が使いやすいと思う」と齋藤さん。

それに対して、キッチンカプリッチョの増川さんからは「料理に使う場合は、逆に糖度が低い方が使いやすいし、個性があった方が良い。酸味強めの桃なら、レモンと合わせてドレッシングになど、アイデア次第でいくらでも使える」との意見も。

皆さんピューレを手に取り、早速どんな商品を開発予定かなどを共有する様子も見られ、期待に満ちた表情を浮かべていました。

第1回果樹加工勉強会

福島市での1次加工の盛り上がりに期待

参加者の皆さんの議論には終わりが見えず、散会後も立ち話で盛り上がっていた様子がとても印象的でした。
参加者の皆さんから寄せられた感想を一部ご紹介します。

  • 皆さんの意識が高く、最初から最後まで知らなかったことの連続だった。とても実りある時間だった。
  • 桃の1次加工をした場合、桃のシーズン以外に使ってもらえるか不安だったが、みなさんの話を聞いて需要があるんだと、気づきがあった。前向きにやってみようと思えた。
  • すごく画期的な会に参加できてとても光栄。他の業種の方とお話することはこれまでほとんどなかったので、今までにない新しい視点を得られた。

次回、第2回は10月21日(月)に同じく「カンパイバル」を会場に開催予定です。衛生管理方法などを確認するほか、ピューレを使った商品開発の途中経過報告などを行います。どんな商品が誕生するのか、期待が膨らみますね。

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