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「夢を叶えるにはコツがある」エアレースパイロット 室屋義秀さんインタビュー

ふくしまスカイパークを拠点に活躍する、日本を代表するパイロット・室屋さんにお話を伺いました

エアレース・パイロットの室屋義秀(むろや よしひで)さんといえば、皆さんよくご存知だと思います。福島市在住で、ふくしまスカイパークを拠点にレース活動を行う、日本を代表するパイロットです。
2009年からレッドブル・エアレースに参戦し(アジア人初)、2017年には年間総合優勝。また2023年から始まった「AIR RACE X」の発起人であり、初代チャンピオンでもあります!

今年のAIR RACE X 2024では、レース1を終えて現在ランキング2位。8月30日から始まるレース2に向けて調整を進めているなか、福島市観光ノートでインタビューさせていただく機会を得ました。
そこで、室屋さんはなぜ福島を拠点に選んだのか、世界を相手に戦うパイロットに必要なものは何か、また子どもたちに向けた教育活動や、夢を叶えるメンタルトレーニングについて伺ってきました。

福島市をはじめ全国の航空ファン&エアレースファンの方、世界のトップアスリートのメンタルトレーニングを知りたい方、ぜひご覧ください!

広大な空域と良好な環境が揃った ふくしまスカイパークを拠点に

ふくしまスカイパーク上空を飛ぶ室屋さんの機体

写真:(c)Masanori Naruse

——室屋さんと福島市とのご縁について伺いたいのですが、なぜ、ふくしまスカイパークを活動拠点に選んだのですか?

ふくしまスカイパークが開港したのが1998年、その頃僕は、関東や茨城の飛行場で飛んでいました。
ある日、北海道に向かう途中にちょうど福島県の中通り上空を通るんですが、今度ここに飛行場がオープンするというので帰りにちょっと寄ってみたんですね。
もとは農産物の空輸のためにできた空港ですから、地元の方も結構いらして、フルーツをいただいたりととても良くしてもらって、それからなんとなく行ったり来たりするようになって。

僕らのようにアクロバット飛行をするには広い空域が必要ですが、関東は成田空港や羽田空港があるので空域がとても狭く、思うように練習ができません。そんな中、ふくしまスカイパークは練習用の空域が広大で、旅客機などが入ってこないようになっているんですね。
山間で練習がしやすく、環境が良く、そして人もいい。それまでは縁もゆかりもない場所だったんですが、すっかり気に入って、そのまま福島に住むことになりました。

ふくしまスカイパークは設備面も含めて飛行場としてきちんと管理されているので、僕ら飛行機乗りとしても安心感のある飛行場だなという認識です。

AIR RACE Xについて

AIR RACE Xの決勝画面

写真:(c)AIR RACE X

AIR RACE X 2024は、AR(拡張現実)の技術を使って世界のトップパイロットが空の最速をかけて戦う、新しい形のエアレースです。世界各地にいる選手が予選期間中に実際に飛んだ飛行データを使い、ARによって、実際には飛ぶことのできない渋谷の街なかなどで対戦する様子を映像として見ることができ、とても迫力があります。
レース2 REMOTO ROUND – EDO – は、8月30日から予選ウィークが始まり、決勝は9月15日(日) 22時から大会公式YouTubeチャンネルで放送されます。今回の舞台は東京、川沿いの街並みを背景に、4つのパイロンと10本のゲートを駆け抜けるスリリングな空中バトルが展開されるとのこと。

——AIR RACE Xになってから、選手の皆さんはそれぞれが自分の拠点空港で一人で飛ぶのですよね。3次元のデータや位置情報に合わせて飛ぶのですか?

飛行データはデジタルデータで取るんですけれど、パイロットはデータを見ながらだとさすがに飛べませんので、地上に3m角くらいの大きい目印を敷いて、その目印をめがけてタイミングや角度とかを考えながら飛んでいるんですね。
実物のパイロンはありませんので少し飛び方は違いますが、以前のレッドブル・エアレースとかなり近いレース展開ができています。

——以前のように実物のパイロンがあって飛ぶのと、どちらが飛びやすいですか?

パイロンがあったほうが、実際のモノが見えているので角度やタイミングは非常に取りやすいんですが、パイロンがなければ接触する可能性もありませんので、さらに安全になります。なので、どちらがいいかは難しいですね。

実際にパイロンがあってリアルで飛ぶとなると、高度な技術を持つ限られた人でないと飛ぶことができません。しかし、ARを活用することによって、例えばサッカーでいうクラブチームリーグみたいな人でもレースが可能になるかもしれない。いろんな人にチャレンジの可能性が広がりますので、新しいシステムとしては非常に面白いかなと考えています。

「夢を実現するマインドをつくる」次世代育成への取り組み

「空ラボ」(写真:(c)Taro IMAHARA)

「レースパイロットプログラム」(写真:(c)PATHFINDER)

——スカイパークを拠点に、次世代の子供たちに教室を開催したり、若いパイロットの育成に取り組んだりしておられますね

僕らが世界に挑戦させてもらう中で、紆余曲折を経て、いろいろなことを学んできました。操縦技術はもちろんですが、しかしそれを伝えても使う人はほとんどいないと思うんですね。
それならば、どうやって夢を叶えていくのか、目標を達成するのかというコツみたいなものを、理解しやすい方法で多くの人に伝えることができたら、 福島県全体としてもう少し底上げというか、みんながより良いウェルビーイングな世界に近づけるんじゃないかなと。そのような思いで、2018年から教育活動を始めています。

小学3年生から中学2年生が対象の「空ラボ」という教室では、そのマインドの作り方のヒントをちょっと体験してもらうなど、そこで学んだ子たちが飛行業界に関わるかどうかとは関係なく教育しています。

その子たちの中から「飛行機やりたい」という子が出てきたら飛べるようにしようということで、訓練用のグライダー型の飛行機もあります。それは14歳から練習できるんですね。それで高校生たちが免許取得にチャレンジして、高校2年生の夏休みに受験して、国家資格を取って。でもまだ車の免許は取れないんですけどね(笑)
3人の高校生のうち一人は空ラボの卒業生ですが、そんなふうに成長している子どもたちがいて、その中から来年、航空大学校を目指している子や、アメリカの航空大学への進学を準備している子もいます。

また、昨年からは「レースパイロットプログラム(R.P.P)」という、プロのレースパイロットになりたい人の指導もしています。プロになるのはハードルが高く、免許を取るのとはだいぶ違ってハードですし、費用とかいろんな面で個人の努力だけでは難しいところもありますので、我々がサポートしています。
5年計画で、今1年目の基礎が終わり、秋口にはアクロバット飛行訓練が始まる予定です。その様子は福島中央テレビ「ゴジてれChu!」内「R.P.P 世界と闘うパイロットオーディション」で放送されています(過去回はYouTube 中テレ公式チャンネルでも配信)ので、お楽しみに。

夢を叶えるにはコツがある。まず自分自身を見つめること

室屋義秀さん

——子供たちに「夢を実現するためのマインドの作り方を教えたい」というお話がありましたが、少しヒントを教えていただけませんか

夢を叶えるには、やっぱりコツみたいなものがあるんですね。僕もレースに勝てない時期があって、そのときにメンタルトレーニングを学びました。
メンタルトレーニングというと、催眠術のように、やれば急にメンタルが強くなるようなイメージがあるかと思いますが、実際は筋トレと一緒で、続けていくことで強くなります。

トレーニングの最初にあるのは、まず「自分に対する信頼」というか「自分自身を見つめる」ことです。自分の特性や、自分は何が好きかということを見つめる。自分でそれらの認識ができたら、脳みそが動き出す。

他人と比較したり、何か言われないようにしたりしていると、脳みそが自分の力を抑えて、力を出さないように制限してしまうんですね。それを「自分はこれでいいんだ」と脳に返してあげる。そうすると簡単に、数十倍、数百倍、 下手すると3万倍くらい力が出るといわれています。
そのように、ちょっと物の見方を変えるだけで変わってきます。

——空ラボで学んだ子どもたちの中から、空を飛ぶ子もいれば、また違う方向で才能が花開く子も出てくるかもしれないと思うと、これからが楽しみですね

そうですね。空を飛ぶ子どもが空ラボから出てほしいというよりは、もっと多くの子どもたちに、このような考え方を広められたらいいなと思っています。

世界を目指すパイロットに必要なものは

愛機 EXTRA 330SCと室屋さん。格好良すぎて、ポーズをお願いしたこちらが照れてしまいました。

——室屋さんご自身も含めて、レースパイロットに必要な素質、欠かせないものはなんでしょうか

レースパイロットには、本当に強いモチベーションが必要です。例えば、体力を鍛えようとなったときに、毎朝1時間、週7日間走れますか? ということなんです。
ただそれだけのことをやればいいわけですが、それができずに辞めていった人たちがたくさんいます。たった1時間の時間がないわけではありませんから、やるかやらないかだけ。そこまでしてやりたいという思いがなかったら、何万分の1という選ばれた世界に入っていくのは無理だと思うんです。
心技体を含めていろんなものが必要なのですが、少なくともそのあたりができないのであれば、モチベーションがそんなに高くないんだろうなと判断されてしまいますね。

あとは、モチベーションを自分で大事にしてあげることも必要です。放っておいたらモチベーションなんかなくなってしまいますので。
自分の本当に好きなことが見つからないと、がんばれないですよね。

——自身を深く見つめてきたからこそ「飛ぶことが好きで、自分はこれで世界一になるんだ」という強い思いを貫いてこられたんですね

それはあくまでも結果論ですからね……、40歳くらいまで、よくわからないままに突っ走ってきましたので。ただ、全開で走っているのは確かです。

でも、やっぱりそれだけではどこかで上手くいかなくなるんですね。昭和の「24時間戦えますか」世代で、もう本当に24時間戦うつもりでやるんですけど、それでもやっぱり勝てなくなるときがある。世界の壁があったり、どこか自分の中に壁があったり。
悩みながら、そこから考え方を変えていく。自分の考え方が変わると、周りが変わってくる。そのようなことを含めて、世界一を獲れたわけです。

——世界のトップアスリートでいるために、普段から心がけていることはありますか?

やっぱりバランスが大事かな。心技体のすべて必要だとよく言われますけどね。
心については先ほどのお話のような感じで、技と体については、あまり面白くはない積み重ねを淡々と続けられるかどうかかなと思っています。

体重もあまり増やせないんですね。レースでは機体とパイロット込みの重量が決まっているので、基本、僕はいつもずっと同じ体重です。数kg増えると100分の何秒かにかかわってきますので、レース中って本当に1kg単位ぐらいでシビアですね。
だから体重計には普通の女性より頻繁に乗っているんじゃないでしょうか。少なくとも毎日乗ります。

——レース前に、験担ぎというか、必ずなにかを食べるなどは?

「福島の桃」って言いたいところなんですが(笑)、 実はあまりしないんです。ルーティーンがもうその前からずっと決まっていて、これを変えないというのが基本スタンスです。
験を担ごうとすると、いつもと違うものを食べるじゃない? カツ丼とか(笑) でも、違うことをすると調子が悪くなる可能性があるので。

生活のリズムや食べるものを整えて、トレーニングも同じ状態ですっと入っていって。トレーニングする、結果が出る、これをずっと繰り返していると、何が良くて何が良くないかわかってくるので、変わらずそのままですね。

練習か本番かがわからないぐらいにしてあげる。心を乱さず、チェックリストと時間によって、もうロボットのように行動してロボットのように飛んでいくというのが、レースやスポーツで勝つためのコツかもしれないですね。

福島の皆さんとエアレースファンへメッセージ

ふくしまスカイパークを飛行する室屋さんと、観客

写真:(c)Taro IMAHARA

——福島のファンの皆さんにメッセージをいただけますか

レースをふくしまスカイパークでやらせてもらえる環境をいただいて、我々にとってここで飛べるというのはすごくありがたいことです。
レース機は音も出ますし、スピードも速いし、飛べる場所を探すのは簡単ではありませんが、福島市の理解があって我々の活動ができているということは非常に大きなアドバンテージで、それは世界一を獲った大きな大きな要因でもありますし、今現在も戦えている要因だと思っています。
特にスカイパーク周辺の地元の皆さんには本当にご理解をいただき、応援いただいていることが何よりも力になりますので、それが本当に一番大きいですね。

飛行機を操縦しようという人はあまり多くはありませんので、我々からなにか皆さんにお返しできるとすれば、教育や、我々がちょっと変わった世界で得てきたノウハウを必要な人にお渡しする、そのようなかたちで地元に貢献できたらいいなと思っています。

あとは産業づくりということで、福島県とともに次世代飛行機などを含めた航空宇宙産業の集積をしようという活動をしています。航空に関わる産業を、ここスカイパークも含めた福島で、未来に繋がる子供たちが就業する先や夢を見られるような先を作ることができたらいいなと思っています。

——世界チャンピオンの室屋さんが福島を拠点に活動してくださっているのは、地元の私たちにとってもすごく嬉しいことです。室屋さんがスカイパークで練習をしているときに、一般の人たちがここで練習を見せてもらうこともできますか?

そうですね、見ている方もいらっしゃいます。ただ完全に不定期で飛ぶので、なかなか飛んでいるときに当たらないかもしれません。AIR RACE Xの期間中は、飛ぶときにはエアレースチームのX公式アカウント(旧Twitter)で時間などをお知らせしますので、結構集まってくださいますね。

特に今年は、9月7日(土)に福島市のイベント(下記)があって、そこで子どもたちもいろんな体験ができますし、レース機も天気が良ければ飛ぶと思いますので。飛行機が飛んでいなくても、いろんなものに触れられる機会を作っていただいたので、ぜひ気楽に飛行場に来てもらえたらと思っています。スカイパークは天気がいいと気持ちいいですよ!
(※ 事前申し込み制で、各プログラムはすでに定員に達しています。他にもキッチンカーなどの出店もあり、楽しめるイベントです)

——AIR RACE X 2024のレース2に向けての意気込みをお聞かせください

レース1は結果2位で、今ポイントランキング2位につけています。全3レースでポイント制なので、あと2戦ともトップ3くらいに入れるよう、2戦目は本当にていねいにいきたいですね。レースに向けての調整が8月末ぐらいで完了し、戦力アップをしています。

やはりレースが始まると、ライバルたちもそれぞれ改良してどんどん速くなってきます。今、接戦ではあるんですけれど、ていねいに、勝ちにいきたいなと思っています。

また、来年以降のシーズンに向けて、レースパイロットたちが集まってグランドチャンピオンショーのようなかたちでリアルで戦うという世界を目指してやっていますので、期待してください。

——ありがとうございました。心から応援しています!

(追記)AIR RACE X 2024 シリーズチャンピオン獲得!

(10月22日追記)
このインタビュー後、9月15日に行われたレース2で室屋選手は予選・決勝ともに1位を獲得し、完全優勝でシリーズランキング首位に躍り出ます。
そして先週、10月19日に行われたシリーズ最終戦のレース3でも予選1位、決勝ではシリーズランキング2位のマット・ホール選手とデッドヒートの末、優勝と、レース2に続いて再び完全勝利!
悲願のAIR RACE X 初シリーズチャンピオンを獲得されました。本当におめでとうございます!

レース結果や白熱のレース動画は、以下のリンク先からご覧ください。
選手それぞれの拠点でのフライト映像も交えながら、渋谷を舞台にしたデジタルラウンド、迫力がありました。

【プロフィール】
室屋 義秀(むろや よしひで)
エアレース・パイロット/エアロバティック・パイロット
1973年1月27日生まれ
1991年、18歳でグライダー飛行訓練を開始。
2009年、3次元モータースポーツシリーズ、レッドブル・エアレース ワールドチャンピオンシップに初のアジア人パイロットとして参戦し、2016年、千葉大会で初優勝。翌2017年、ワールドシリーズ全8戦中4大会を制し、アジア人初の年間総合優勝を果たす。
2023年には新たにスタートした「エアレースエックス」に参戦し、初代王者に輝く。
2024年シリーズは計3レース(5月、9月、10月)開催される。
福島県県民栄誉賞、ふくしまスポーツアンバサダー、福島市ふるさと栄誉賞など多数受賞。

関連サイトへのリンク

室屋義秀オフィシャルサイト

Yoshi MUROYA (室屋義秀)Xアカウント(旧Twitter)

AIR RACE X

未来の自分を見つける教室「空ラボ」

レースパイロットプログラム(福島中央テレビ)

【密着】”世界一”目指す男たちの汗と涙!レースパイロット育成プログラム 室屋義秀と若者たちの挑戦 福島 NNNセレクション(YouTube)
(室屋さんのこれまでの経歴、AIR RACE Xについて、そしてレースパイロットプログラムについてよくわかるドキュメンタリー。「空を飛ぶ」ことの楽しさ、そして厳しさも伝わってきます)

おまけ:翼の先端に付けられた装置を守るためのカバーが、ホンモノそっくりでかわいい!

 
 
 
 
 
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村上瑞恵

レギュラーライター /編集・ SNS担当

村上瑞恵

地に足のついた生活がしたいと、2006年に都内から福島県にIターン。パソコン通信時代からのPCユーザーで、サイト運営やSNS運用などデジタル方面にわりと強いガジェットおたく。地域のICT化推進事業に携わったのち、Web制作会社で観光情報サイトの編集やSNSを活用した販売促進・ファンづくりを担当し、2022年9月に独立。休みの日はカメラ片手にバイクや車で出かけている。

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