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【特集:ふくしまを盛り上げる人たち】Vol.8 kokoro 河原田 充さん
「飯坂温泉の未来に繋がる文化を創造したい」サステナブルコンテンツクリエイターの情熱
「しゃがむ土偶ぴ〜ぐ〜」や飯坂町のゆるキャラ「ゆげお」グッズの製作、写真撮影、鯖湖会議のファシリテーター、ラジウム玉子をテーマにした街歩きの企画などなど……。これら飯坂温泉の町おこしにつながるさまざまな企画を実現している人がいます。
さらに今年、飯坂温泉や福島に関する雑貨販売やフォトスタジオを備えた「kokoro」をオープン。代表取締役でデザイナーでもあります。
デザイナー? カメラマン? プロデューサー? 家業を継いだ実業家? ひと言でなんと説明すればよいのかわからないほど多岐にわたる活躍をしている彼の名前は、河原田 充さん。
なぜ飯坂町の町おこしに携わるようになったのか、そして「サステナブル」という言葉に込められた想いと、彼の目指す未来について伺ってきました。
目次
家業を継ぐために福島に戻り、自分にできることを模索
——これまでの経緯を教えていただけますか
祖母が東京の山野愛子美容室で修行し、1970年に福島に戻って美容室を始めたのが家業の原点です。その後ブライダルの貸衣裳も手がけるようになり、福島市でもう50年以上続いています。社名の「SACHIKO」は祖母の名前です。弟は社交ダンスのプロで、SACHIKOダンススタジオもやっています。
私自身は大学卒業後、サラリーマンとして南相馬市で再生可能エネルギー関連の仕事をしていましたが、コロナ禍を機に2020年に福島市に戻り、家業を継ぐことを決心しました。
とはいえ、私は貸衣裳やダンスに関する知識はありませんでしたので、そんな中で自分にできること、かつ、やりたいことってなんだろうなと考えたとき、「飯坂温泉」のためになにかできることはないかなと思ったんです。
——なぜ飯坂温泉だったのでしょう
飯坂温泉には縁があるんです。父が飯坂出身ということと、遡れば30年くらい前は毎週のように飯坂温泉のホテルでご婚礼がありましたので、親の仕事にくっついて飯坂温泉に来ていたんですね。当時の飯坂はすごく栄えていた記憶が残っています。皆カランカラン下駄を鳴らしながら歩いていて、飯坂ってすごいなと。
でも、一度福島を出てその後戻って飯坂に遊びに来たときに、ちょっと言葉は悪いかもしれませんが、寂しくなっちゃったな、こんなに閑散としていたかな……と感じました。
それをきっかけに飯坂温泉のためになにかできることはないかと考えたときに、自分はクリエイティブなことが好きでしたので、じゃあまずデザインを描いてみようかなと。
あとは、なぜかやることなすこと飯坂に関連していたんですよね。僕の好きなものが飯坂にあった、みたいな。
「福島のためになにかしたい」という想い
——もともとデザインを勉強していたのですか?
いえ、大学では教職を取っていて、特別支援教諭になりたかったんです。しかし私の受験の年は、震災の影響で現役生は採らない方針でしたので、もちろん私も受かりませんでした。それで幼稚園で1年少し働きました。
震災をきっかけに「福島のためになにかしたい」という想いが私の根底にあって、当時はそのアウトプットが「学校の先生」だったんですね。福島の次代を担っていく子供たちを育てることが、私ができる「福島のため」なんじゃないかと。
南相馬市に行ったのも、福島のために何かできるんじゃないかということで選びましたし、今も福島のため、飯坂のためになにかしたいという気持ちの根っこは同じだと思っています。
——最初に手がけたのはどんなデザインを?
最初の仕事は「しゃがむ土偶ぴ〜ぐ〜」のグッズデザインです。きっかけは、旅館の吉川屋さんで温泉むすめの「飯坂真尋ちゃん」のパネルを見たときに、そこに土偶が描かれていたのを見たことでした。
なぜ土偶がいるのかと。じょーもぴあ宮畑に本物がいるらしいぞということで、コロナ禍ということもあり入り浸って土偶と語り合う日々を過ごしていました。
で、市役所の文化振興課に「グッズなどのデザインをやらせてください。許可だけください」と直談判しに行きました。それでやらせていただいたのが一番最初でした。
とりあえず、やらないとかたちになりませんので。「やりたいな」で終わってしまったらもったいないですよね、やってダメだったら別のことをやればいい。
「ゆげお」との衝撃的な出会い
そんなことをやっているなかで、2021年に「ゆげお」に出会うわけです。ゆげおは公募により2019年に飯坂町の公式キャラクターとして誕生していたんですが、こんなにおもしろいのに誰もゆげおを知らない。
なのでこれも直談判しに行きました。こんなにおもしろいものを観光資源の一つとして使わないのはもったいない。もっと地元に根付いたかたちでブランディングできますよと。
絵やグラフィックはもちろんデザインですが、街作りもデザインだと思っているので、そこに焦点を当てたという感じです。
そこからグッズを作ったり、ゆげおのマネージャーのようなことをしています。振り返っても、ゆげおとの出会いが自分にとってのターニングポイントだったという気がします。
——ゆげおのキャラクターづくりもデザインのひとつなんですね
そうです。キャラクターを全部自分で作り出すことができたので、そういう意味ではすごくクリエイティブだったんですよ。今も探り探りやっていますが。
——福島のため、飯坂のためにという強い想いはどこからくるのでしょうか
やっぱり、何億という人類の中で、僕が日本に生まれて、福島に生まれて、福島市に生まれて、飯坂とも関係があるっていうことに、何かしら意味を持たせたかったっていうのが自分の中にあって。
自分が生まれてきた意義、それを少しでも還元というか、次の代に残せるようなかたちでなにかをしたいなと思ったのかな。
「鯖湖会議」はイベントではなく、文化に
——「鯖湖会議」はどのような取り組みなのですか?
「鯖湖会議」では何をしているかというと、飯坂から3名ほど必ず毎回ゲストを呼んで、8分間のフリートークをしてもらっています。何の話題でもいいので。そのあと質問コーナーを設けて、会場に来てくださったお客様と交流する。それをゲスト3名でやって、そのまま飲み会に突入するんです。
交流人口を増やすためだけにやっていて、僕はこれを「イベント」とは呼びたくない。なぜかというと、この鯖湖会議は10年、20年、30年と続けていって、文化にするつもりなんです。
フリートークも単なるトリガーに過ぎなくて、最初から「飯坂の未来について話しましょう」じゃ誰も来ないでしょ?(笑)
そうではなくて、飯坂って面白いもの・人・ことがたくさんあるから、それをただ皆で面白がろうぜ、そのための場所を提供するから皆おいで、ということをやっているだけなんです。
そうすると飯坂の中の人同士の交流も生まれるし、飯坂の人と飯坂の外の人との交流も生まれ、その人同士が飯坂のことを考えるきっかけになるんです。今まで考えていなかった人たちが飯坂のことを考えてくれるだけでも、関係人口、交流人口が増えると思うんですね。そういう場を作ろうとしていて、今、僕がファシリテーターをやらせてもらっています。
どんな人だかわからない人が、いくら飯坂の未来について語っても、誰にも響かないじゃないですか。
とにかく僕がどういう人間で、どんなふうに飯坂を愛して、どんなふうに考えてるかっていうのを皆さんに分かってもらうために、本当に週に9回くらい飯坂に来てましたね。
今はもう、街を歩いていると「どうもねー」って皆さんに声をかけていただけるようになったので、すごくありがたいなと思っていて。飯坂の人たちがあたたかく迎えてくれたっていうのはすごく大きなことなんです。だからがんばれる。
そして今年、ついに飯坂町に引っ越してきました。
「kokoro」をオープン
2024年4月17日に、飯坂に「kokoro(こころ)」をオープンしました。大正時代から続く銀行の跡地なんですよ。物販とデザイン事務所、元々あった2階のフォトスタジオもそのまま使います。
今、そのスタジオで撮影したり、旧堀切邸さんでロケーション撮影をやらせてもらったり、観光拠点としてお店を活用したいなと。今後は街歩き用の着物で写真を撮るようなことを考えています。
店名の「kokoro」と「うさぎ」は、僕が飼っていたうさぎがモチーフです。可愛がっていたうさぎさんがお月様に帰ってしまったんですが、その子が「こころ」という名前だったんですね。
僕のブランドもkokoroという名前にして、一緒に福島のために頑張るからねという気持ちを込めました。
飯坂の魅力を引き出し、文化として次の世代に引き継ぐ
——河原田さんの将来の夢は?
正直、やりたいことはまだまだいっぱいあるんですけど、やりすぎでしょ?(笑)
でも、僕はイベンターではないですし、地域コンサルティングと銘打ってやっているわけでもないですし。単純に飯坂の町を盛り上げたいっていうのもちょっと違う。
なんだろう、僕の夢って。
僕が携わったコンテンツがひとつでも多く、未来に残ることでしょうか。
一瞬一瞬はひとつのコンテンツに過ぎないんですけど、単発のイベントを成功させれば良いというものではなく、それをいかに未来につなげていくか。
結局、文化を創造したいんです。自分の子供や孫のような、次の世代の未来につなげたい。それができたら、やってきてよかったな、生きてきてよかったなって思えるんじゃないかと。
自分が良くなるためには周りを良くしないといけないし、周りが良いから自分も潤う。そんな好循環を作っていきたいですね。
そして自分が楽しい、自分が好きなことをやっていきたいですね。
だって「これ好きだよ、これ楽しいんだよ」って言ってる人って、輝いて見えるじゃないですか。
——河原田さんを「何をやっている人」とご紹介したらいいでしょうか?
サステナブルコンテンツクリエイターかな、長いな(笑)
店舗名 | kokoro |
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住所 | 福島県福島市飯坂町湯町18-4 |
TEL | 024-555-1101 |
営業時間 | 10:00〜18:00 |
定休日 | 火曜・水曜 |
駐車場 | 店舗向かいの有料駐車場をご利用ください(1時間100円) |
アクセス | 旧堀切邸・鯖湖湯から徒歩1〜2分。県道319号湯町通り沿い |
HP・SNS | https://airrsv.net/kokoro-photostudio/calendar(フォトスタジオ予約) |
備考 | 有限会社SACHIKO 代表取締役 河原田 充
ブライダルギャラリーSACHIKO(サチ子の貸衣裳)
ソシアルSACHIKO/SACHIKOダンススタジオ
福島県福島市野田町字道端76 TEL:024-555-1101 |
2024年7月28日(日)開催、第2回 飯坂温泉「日本一の桃まつり」には、もちろんゆげおも登場します!