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五感で楽しむ花見山の春 視覚障がい者向け体験ツアーレポート

「百聞は一体験にしかず」視覚に頼らない花見山体験を企画

八重桜に触れ、花を楽しむ

お天気も良く、絶好のお花見日和を迎えた4月13日(土)。視覚障がいのある方を対象に「花見山公園」を案内するツアーが、福島市観光コンベンション協会の主催で行われました。

当日は4名の視覚障がい者の方が参加し、手引き者(ヘルパー)と、花見山のボランティアガイド「ふくしま花案内人」が一人ずつ付き添ってサポートしながら、花案内人の解説を聞き、花に触れ、香りを楽しみ、60分コースを約2時間かけてゆっくりと花見を満喫しました。

再放送のお知らせ

『五感で楽しむ花見花見山モニターツアー』の模様が、下記番組で再放送される予定です。
番組名:「ふくしま未来ストーリー」(福島中央テレビ)
放送日時:2024年5月5日(日) 昼12:45~

ぜひご覧ください!

これまで「茶色のイメージ」しかなかった花見山

担当者としてツアーを企画した、福島市バリアフリーツアーセンターの佐藤由香利さんは「昨年秋に、視覚障がいのある方から『花見山に行ってみたい』と相談されたのをきっかけに、実際に花に触れ、香りをかぎ、五感で楽しむ花見をしてほしいと企画しました」といいます。

佐藤さんに相談をしたのは、視覚に障がいのある菅野典子さん。今回のツアーに参加してくれました。
これまで心配なことがあって、花見山には行きたくても行けなかったのだそうです。

「花見山には中学校の遠足で来たことがありました。小学生のときから視力が弱かったこともあり、足を踏み外さないよう注意して下を向いてばかりでしたので、花見山には土の茶色のイメージしかありませんでした
そして個人的に花見山に来たとしても、こんなに近くで花を見たり、触ったり香りをかいだりはできないと思うんですね。勝手に花を触っている非常識な人だと、そう思われてしまうのではないかと心配で行けなかったんです

視覚障がいのある方にとっては、触れることや香りをかぐなど、視覚以外の感覚がさらに大切なことでしょう。これまでそれができなかった(遠慮せざるを得なかった)ということに、私はまったく思い至りませんでした。

花に触れ、香りをかぎ、形を確かめながら花見を満喫

今回のツアーに参加してくれたのは、4名の視覚障がいのある方(うちお一人は盲導犬とともに参加)と、手引き者。
朝、駅前からタクシーに乗車して花見山公園入口に集合した皆さんに、花案内人さんが一人ずつ付き、それぞれのペースでゆっくりと花見山を登っていきます。

花見山公園入口で記念撮影

左から2番目がツアーを企画した佐藤由香利さん。前列右から4人目がツアー企画のきっかけとなる相談をしてくれた菅野典子さん

今年は桜が咲き始めた頃に気温が高い日が続き、あっというまに花見山の桜も満開に。早咲きの東海桜は終わり、ソメイヨシノが満開から散り始め、レンギョウ、ハナモモなどが満開というタイミング。
菜の花の黄色が鮮やかな園内を歩き、花のそばで立ち止まり、花案内人さんがていねいに説明してくれる言葉を聞きながら、花や葉・木の幹に触れ、形を確かめ、香りをかぎ、五感をフルに使っての花見を楽しんでいらっしゃいました。

赤い葉が美しいオオバベニガシワの花に触れてみる参加者
伸びた枝に両手でそっと触れてみる

途中、訪れていた他の観光客の方は皆さん、後から追いついてもツアーの趣旨がわかると待っていてくれたり、どんな花を見ているのかと興味を持ってくれたりとあたたかく見守ってくださったのがありがたく、無理に追い抜いていく人は一人もいませんでした。

「同じ黄色でもいろんな黄色があるとわかった」

花見山から下りてきたあと、ツアーに参加してくださったお二人にお話を伺いました。

「皆さんの言葉も、私たちの情報になり目になってくれているんです」菅野典子さん

桜と菜の花を背景に、ベンチに座る菅野典子さん(右)と本多達子さん(左)

参加者の菅野典子さん(右)と、手引き者の本多達子さん(左)

「今回このようなツアーを企画していただいたので、今日は堂々と花に触ったり、花の香りをかぐことができ、お花見を満喫しました。
他の観光客の方が『これ、桜に見えるけど桃なんだね〜』などと話している声を聞きながら、それらも私たちにとってはとてもありがたい情報で、ああこれは桜に見えるような花なんだなということがわかります。
ヘルパーさんやガイドのみなさん、そして周りの方の言葉も、私たちの情報になり目になってくれているんです」

「同じ黄色でもいろんな黄色があるとわかった」鈴木祐花さん

盲導犬とともに参加してくれたのが、鈴木祐花さん。鈴木さんには以前、盲導犬ユーザー受け入れセミナーに講師として参加いただいたこともあります。

鈴木さんがテレビ局のインタビューに答えている中で “同じ黄色でもいろんな黄色がある” というコメントがとても印象的で、今回のツアーが開催できてよかったなと思った嬉しい言葉の一つです。

レンギョウやチューリップの前で談笑する鈴木祐花さん(右)と、花案内人の酒井里美さん(中)、福島市バリアフリーツアーセンターの佐藤由香利さん(左)

鈴木祐花さん(右)と、花案内人の酒井里美さん(中)

「色は小さいときに見た記憶があるので黄色のイメージはつくんですけれど、菜の花とレンギョウの黄色は違っていて、レンギョウのほうが濃い黄色なんだなというのは、今回のように説明を聞かないとわかりませんでした。
これを機会にいろんな取り組みが広がっていけば、もっとたくさんの方がいらっしゃって、同じように楽しめるようになるのかなと思います。
今日は一対一で花見山ガイドの方がついてくださって、自分のペースでゆっくり見られたことがとてもよかったです」

目や体の不自由な方が身近にいるとき、私たちはどうするのがいいですかという質問には、このように答えてくれました。

「その方その方によって困っていることやしてほしいことが違いますので、まずは『なにかお手伝いしましょうか』というその一言から声かけをしていただけるととてもありがたいです」

「隠し味の案内を大切に」花案内人・菅野紀子さん

ガイドをしてくれた「花案内人」の一人、菅野紀子さんは福祉施設に勤務していた経験があり、視覚障がいの方を案内するときに必要な気遣いについての知識がありました。
それを事前に資料にして花案内人の皆さんたちで共有し、今日のツアーに臨んだそうです。

「大切なことは、心を込めて案内することに加えて、配慮が必要だということ。そしてその方の気持ちを思いやるということです。それは一般の方をご案内するときも一緒ですが、視覚障がいというのは人それぞれ見え方が違うので、その方に合わせた配慮が必要なんですね。
人間は情報の80%を視覚から得ているといわれていますが、視覚障がいの方はそれが遮られているわけです。でも、ただそれが不自由だというだけで、配慮は必要だけれど、特別ではない。心がけているのはそのようなことでしょうか。
今日は手引き者がついていますから、私は花見山の状況や、このお花はどんなふうに咲いているのか、花びらが舞ってるよとか、そのような状況を言葉にして説明すればいいだけでしたので、私も本当に楽しめました」

コース途中から桜越しに望む、福島市街と吾妻連峰

特別なツアーがなくても誰もが楽しめる花見山に

ツアー後にお話を伺った中で、参加者の菅野さんからこんなお話がありました。

「今年の4月1日から事業者による障害のある人への合理的配慮の提供が義務化されたことによって、『なにか言われたらそのようにしないといけなくなったのでは……』と構えてしまう事業者の方もいらっしゃるかもしれません。
実際はそうではなくて、お店の方と私たちのように障害のある人とが話し合い、相談することによって『お互いにとっての良い落としどころを探していこう』ということだと思っています。
ですので、できないことがあってもいいんです。『それはできないけれど、これならできます』という相談ができればいいなと、私はそう思っているんです」

参加者の方、そして花案内人や手引き者の皆さんが話していたように、一人ひとり状態や困りごと、してほしいことが違うという前提に立って、まずはできることをしてみようという声かけや対話が大切なのだと思いました。

誰もが楽しめ、誰もがその人のペースで楽しめるような花見山公園に、そしてゆくゆくはこのような特別なツアーがなくても、いつでも誰もが楽しめる観光地になっていけばいいなと、そう願っています。

福島市のバリアフリー観光について

福島市内のバリアフリー観光については、福島市観光案内所にぜひお気軽にお問い合わせください。
バリアフリーに対応しているタクシーの手配なども承っています。

また観光案内所では、車椅子の有料貸し出しも行っています(2台あり)。2時間以内は無料、当日営業時間内であれば500円でご利用いただけます。利用予約も承りますので、事前にご相談ください。

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