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福島市唯一の酒蔵「金水晶 四季の蔵」が荒井に移転オープン、新たな酒造りに挑む
いい米と水、果物、人で「福島を醸す」
1895(明治28)年に創業した福島市唯一の酒蔵・金水晶酒造株式会社。市内松川から荒井にある「四季の里」の隣に移転し、2024年3月16日に「金水晶 四季の蔵」がオープンしました。
5代目蔵元の斎藤湧生(わくお)社長に新しい酒蔵を案内していただきながら、移転の経緯や新商品について、新しい土地での酒造りへの思いを伺いました。
目次
直売所を併設した新しい酒蔵が誕生
「四季の里」の敷地に隣接する「金水晶 四季の蔵」は、約3千平方メートルの敷地に日本酒蔵やリキュール棟、直売所が整備されています。
断熱構造の日本酒の仕込み室には冷房を備え、室温を5度に保つことで、10月~翌6月頃までと通常より長い期間、日本酒を仕込むことができるようになりました。
松川時代より生産量は減りますが、質の高い福島産の酒の提供を目指しています。
三度の被災で移転を決意
移転前の松川の日本酒蔵は、2011年の東日本大震災、2021年2月の福島県沖地震で被災。蔵を補強するも2022年3月の福島県沖地震でも被災し、全壊判定を受けました。
一時は閉業を考えますが、「地元の酒を残したい」という一心で、市内荒井への移転を決断したのだそう。
斎藤社長:
荒井の蔵の建設と同時に松川の蔵の解体が始まりましたが、松川の地盤はゆるく、蔵の鉄柱は曲がり、木の柱は折れ、この場所で酒蔵を建て替えることは困難だと感じました。
荒井は車でのアクセスが良く、駐車場も整備できるので、お客さまが通いやすい。ここなら地盤もしっかりしていますしね。
水は日本酒にとっての生命線
荒井に移転する決め手のひとつに、13年連続水質日本一を誇る、荒川の伏流水があります。
斎藤社長が民間業者に水質調査を依頼したところ、荒川の伏流水は中軟水で、全国的にも珍しい、硬度の高い水であることがわかりました(松川の水は超軟水)。
さらに、発酵・醸造分野の研究を行う福島大学 食農学類 藤井力 教授によると、この水には「カリウム(K)」が多く含まれているので、日本酒がすっきりと香り高く仕上がるのだそう。
斎藤社長:
清らかな荒川の水で日本酒を造るにあたり、口当たりが優しく、酸が切れてすっきりとした日本酒を目指したかったので、醸造には水の性質を活かせるステンレスタンクを選びました。タンクのサイズも一回り小さくすることで、品質管理を行いやすくしています。
移転して変化した金水晶の存在意義
荒井に移転して大きく変わったことは2つある、と斎藤社長は話します。
ひとつめは、全量福島県産の酒造り。新酒鑑評会で金賞を受賞しやすいといわれる兵庫県産の酒米・山田錦の使用をやめ、地元の酒米と水だけを使って酒造りをすること。
ふたつめは、アルコールの添加を一切やめたこと。
斎藤社長:
福島市唯一の蔵として、地元の価値を高める目的は変わらないけれど、手段は変わりました。
ここ荒井には、きれいな水があり、良い米や良い果物が育つ一方で、降雪は多い。そんな恩恵も厳しさもある土地だからこそ、もっと地元の良さを出していきたいのです。
アルコールの添加をやめたのも「全部地元のもので造りたい」という思いです。
良い米と水、果物、人で「福島を醸す」。ひと手間加えてかっこいいものにしていきたいですね。
新しい酒蔵で誕生したラインナップをご紹介
お客さまからの「高級なお酒をちょっとだけ飲みたい」という需要に応えて、新商品も誕生しました。
「金水晶 純米大吟醸」300ml 1,200円(税込)。3月22日から販売中です。
私も自宅で飲んでみましたが、香りが良く、甘いけど後味がすっきり。とても贅沢な気持ちになりました。サイズもお値段もお手頃で、お土産にも最適です。
続いて、リキュール棟の内部も見せてもらいました。
ここで造られていたのは、斎藤社長イチオシの桃のスパークリングリキュール「ちびもも」。瓶詰め前の準備が行われていました。
比重が重い果汁と、比重の軽い炭酸をしっかり混ぜるために果汁をキンキンに冷やし、炭酸を充填。瓶詰め時には、瓶に圧力をかけ真空状態にして酸素が触れないようにするこだわりも。
3月16日のグランドオープン時には早々に売り切れた人気商品です。
今後はラインナップも増やしていく予定で、りんごや信夫山産ゆずのリキュールに挑戦し、フルーツラインのブランド品に育てていきたいと斎藤社長は意気込みます。
※フルーツライン:県道50号線の道沿いに約50軒の果樹園が点在する、くだもの王国福島市ならではの県道の愛称。
直売所では日本酒の試飲やオリジナルアイスの販売も
直売所では日本酒の販売をはじめ、日本酒のおちょこやTシャツ、酒升などのグッズを販売するほか、日本酒の有料試飲も。試飲は小さめのプラコップ一杯100円で、ワンコインで手軽に楽しめます。
冷凍ケースにはおつまみに最適な食品やアイスが並びます。
こちらのアイスは、福島市の荒川桜づつみ酒造り協議会とジェラート店「honey bee(ハニービー)」、そして金水晶が共同開発した、酒蔵オープン記念のコラボ商品です。
純米吟醸「あらかわ」を使用した「酒粕(さけかす)入りみそアイス」は、みそと酒粕の風味がまろやかで、和を感じる一品。「酒の塩(えん)入りプリンアイス」は、塩の効いたプリン味アイスに、苦みのあるカラメルが絶妙にマッチしています。
いずれもノンアルコールなので、お子さまも安心して召し上がれます。価格は400円。たっぷりめのサイズなのでシェアするのもおすすめです。
福島ならではの酒を楽しもう
心機一転、新しい土地で新しい酒を醸しはじめた金水晶 四季の蔵。
金水晶が移転オープンしたことで、日本酒、ビール、ワイン、どぶろくなど5蔵元が同じエリアに集結し、2024年の春に「あづま山麓 蔵元ツーリズム」事業もスタートしました。
ますます注目される吾妻山麓エリアから目が離せませんね。