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拒否率45%から0%へ! 「盲導犬ユーザー受け入れセミナー」で正しい知識と対応力を学ぶ
「お客様」にこそ知ってほしい! 盲導犬・視覚障がい者への正しい知識と大切なコミュニケーション方法
『拒否率45%』この数字、一体何だと思いますか?
実はこれ、盲導犬を利用する視覚障がい者が2022年の1年間に、飲食店や医療機関などで受け入れを拒否されていた割合なのです(日本盲導犬協会調べ)。
場所別に見ると、飲食店が最多の47%、宿泊施設が13%、交通機関が12%と、いずれも観光と深い関係の場所ばかり。
もちろん拒否した側にも事情があったはずです……。が、こうした拒否、法的には“不当な差別”にあたるのをご存知でしたか?
今回は、盲導犬や視覚障がい者への理解を深め、現場ですぐに活かせる知識・対応力を身に着けバリアフリーの推進を図ろうと、当協会が主催し、福島市内の飲食・宿泊・観光事業者等を対象に開催された「盲導犬ユーザー受け入れセミナー」をご紹介します。
参加した事業者の方々が盲導犬ユーザーを受け入れる際に最も気にしていること。それは『周りのお客様の反応』でした。反応を気にした故に拒否・差別……は悲しすぎますよね。
ですので、観光ノートの読者の皆さんにもぜひ知っていてほしい知識やよくある誤解を、わかりやすくまとめてみました!
きっと「え、それを差別というの⁈」「私、盲導犬の仕事を勘違いしてた!」と、知らなかった……気づかななった……考えたこともなかった……の連続ですよ。
目次
座学のほか、盲導犬ユーザーの誘導など実技体験も
2024年1月29日(月)にグランパークホテルエクセル福島恵比寿で開催された「盲導犬ユーザー受け入れセミナー」。
講師に公益財団法人 日本盲導犬協会 仙台訓練センター 広報・コミュニケーション部 普及推進担当の黒田 匠さん、盲導犬PR犬のディナちゃん、福島県保健福祉部障がい福祉課 主任主査の吉田真理さん、そして自身も盲導犬ユーザーである副主査の鈴木祐花さんとパートナーのデイズ君をお迎えして開催。
福島市内の宿泊・飲食・観光事業に携わる23名の方々に向け、法律などの座学のほか、視覚障がい者や盲導犬ユーザーの誘導、説明方法などの実技体験といった、サービスの現場ですぐに活かせる知識・対応力など、障がい者への理解を深める学びを教えてくださいました。
「合理的配慮の提供」が努力義務から「義務」に!
そもそも今回のセミナーのきっかけは、障害者差別解消法の改正法が今年2024年4月から施行されること。
これまでは努力義務とされていた「障がいのある方への合理的配慮」の提供が民間事業者にも義務化されることから、“合理的配慮”を改めて学ぶ機会として設けられました。
※障害者差別解消法とは:“障がいの有無に関わらず、互いにその人らしさを認め合いながら共に生きる社会の実現を目指そう”と2016年にできた法律。
法律の話になると難しく構えてしまいがちですが、この法のポイントは2つ。「不当な差別的取り扱いの禁止」と「合理的配慮の提供」です。
不当な差別的取り扱いの禁止
この法によって、役所や会社・店などの事業者は障がい者に対し、正当な理由なく障がいを理由とした差別をすることを禁止しています。差別禁止なんて当たり前じゃん! と思いがちですが、現実には日常的に差別が起きているそうです。
例えば、障がいを理由に
- 付き添い者の同行を求める
- 本人を無視して、介助者や支援者、付き添いの人だけに話しかける
- 入店やサービス提供を断る
- 盲導犬が一緒だから、この時間だけ……この席だけ……と制限を設ける
これらは、不当な差別的取り扱いに該当します。
もちろん事業者側にも理由があるのだと思いますが、その場合でも法律では、『合理的配慮の提供』が努力義務(2024年4月からは「義務」)として位置付けられています。
合理的配慮の提供
合理的配慮とは、それぞれの障がい特性や困りごとに応じた配慮のことです。「できる」「できない」の2択、前例がないから……マニュアルがないから……といった判断ではなく、どういうことならできるか……と、障がい者と事業者等が建設的に話し合い、共に対応策を検討していくことが義務とされているのです。
視覚障がい者への合理的配慮の一例としては
- 買いたい商品がどこに置いてあるのか、いくらなのかわからないという方の場合:陳列棚まで案内し、価格や機能等の情報を読み上げて伝える
- 盲導犬ユーザーが来店したところ、他の方から犬アレルギーの申し出があった場合:双方に了承をいただいた上で、お互いが離れた位置になるよう配席を変更
- 列に並んでレジ待ちをしたいが並ぶべき列の終端や徐々に進んでいくタイミングがわからない方の場合:店員が順番について把握しておき、順番になるまで別のところで待機してもらう
(内閣府「合理的配慮の提供等事例集」より)
などがあります。
障害者差別解消法【合理的配慮の提供等事例集】(内閣府)PDF
誤解してない? 視覚障がいについて
ただし、間違えてはいけないのが“決めつけ”です。当たり前の話ですが、人間は一人ひとりの個性や価値観があり、こだわりは異なるものです。
それに加え、同じ“視覚障がい”でも、程度も見え方もさまざま! 全盲(全く見えない)、視力低下(ぼやけて見える)、中心暗点(中心部分が見えない)、
見え方が違えば、困ることや危険と感じることも一人ひとり違ってきます。
ですので、相手の話を聞かずに、決めつけや思い込みによる一方的な配慮はNGです。
セミナーでは実技形式で、相手に合わせた合理的配慮を学びました。
参加者の方々からは以下のような感想が。
障がいのある方への対応について知識や経験がなく漠然とした不安がありましたが 「どうサポートしたらいいか・必要なのかわからないときは本人に聞く」ためにも、まずは声掛けから始めていきたいと思います。
どんな対人関係でもそうだが、対話を重ねていくことが大切と思った。思い込みで行動しないように心がけたい。
これまで障がいのある方に声をかけることは、おせっかい・失礼になるのでは?と思っていましたが、まずは聞いてみること、何が必要かを知ることが大切であることを知りました。
お互いに建設的なコミュニケーションを取りながら落とし所を探していくのは、事業者に限らず、私たち市民にとっても大切なことですよね。
知ってるようでまったく知らなかった盲導犬の役割
セミナーには2頭の盲導犬が来て、参加者の方々に仕事内容を披露してくれました。横になっている姿が愛くるしい。つい撫でたり、声をかけたり、見つめたりしたくなってしまいます。
ですが、ハーネス(胴輪)をしているときは、お仕事中の印!
盲導犬が具体的にどんなサポートをしているのか、どんな行動が盲導犬の邪魔をしてしまうのか、正しい知識を持っておくことが重要です。
盲導犬のお仕事と「できること・できないこと」
全国に836頭(2023年4月時点)いる盲導犬。専門的な訓練を受けた彼らは視覚障がいを持つ人々の目となり、日常生活や外出時の安全な移動をサポートしています。
具体的な盲導犬の役割としては
- 曲がり角で止まる
- 障害物を避ける
- 段差で止まる
があります。
つまり盲導犬は、道案内をしているわけではありません。目的地までの道順は、盲導犬ユーザーが覚えて歩いています。
また、信号の色を識別しているわけでもありません。横断歩道を渡る際は、ユーザーが周りの音(車や周囲の足音など)で判断しているんだそうです。
こうして盲導犬のできること・できないことを理解することで、盲導犬ユーザーの方へどんな声がけやサポートができるとよいかが見えてきますよね。
盲導犬へのNG行為
また、盲導犬へのNG行為を覚えておくことも重要です。
- 勝手に触る
- 声をかける
- 目を見つめる
- 食べ物を与える
- 写真を撮る
これらの行為は、盲導犬の集中力を妨げ、盲導犬ユーザーの安全を損なう可能性があります。何か盲導犬へアプローチしたい場合は、事前に必ずユーザーに許可を求めることが大切です。
事業者だけでなく、私たちの理解が重要
冒頭でも触れましたが、病院や飲食店をはじめとする公共施設・交通機関・民間施設などへ盲導犬同伴の方を受け入れることは社会の義務。受け入れ拒否は、差別に当たります。
なぜ受け入れ拒否が起こるのか……。参加した事業者の56%が方々が、盲導犬ユーザーを受け入れる際に“周りの反応”が気になると回答していました。
周りの反応、つまり他のお客様となる私たちの反応です。
受け入れる事業者側はもちろん、何より私たち客側の理解が重要だと強く感じました。
ほかにもセミナー内では、盲導犬ユーザーの鈴木祐花さんとパートナーのデイズ君がモデル役となり「声がけ」「手引き歩行」「座席案内」「メニューや室内の説明」などの方法やポイントを実技形式で学ぶこともできました。
参加者の方からも、さまざまな学びや気づきの感想がありました。
これまで、盲導犬が何でもできるものと思っていました。信号を判断したり、目的地への経路などはユーザーが判断していると知り、盲導犬がいれば大丈夫ということではないのだと知りました。周囲の人による手助けが必要なのだと改めて感じました。
積極的に盲導犬の同伴受け入れを行っていきたいと感じた。
実際に盲導犬ユーザーの方の話が聞けて、どのようなときに声をかけるのが望ましいか参考になった。
どうしても盲導犬ユーザー中心に考えてしまいがちだったが、周囲の人達にもより気配りをし、お互いに気持ちよく過ごしてもらうようにしようと思った。
「なにかできることはありますか?」から始めよう
視覚障がい者の歩行をサポートし、自立した生活の大きな支えとなっている盲導犬ですが、実は年々減少傾向にあるそうです。
理由は1つではありませんが、やはり受け入れ拒否は、利用をためらわせることに繋がりますよね。
「知らない」ことは誰でも不安です。今回のセミナーは観光事業者向けに開催されましたが、誰ひとり取り残さない、どんな人でも安心して自分らしく生活していける社会を築いていくためには、まずは私たち一人ひとりが現状を知り、理解と知識を増やしていくことが必要だと実感しました。
「合理的配慮」というと難しく感じるかもしれませんが、大切なことは“相手を理解しようとする相互のコミュニケーション”。これは、障がいの有無とか盲導犬ユーザーとか、関係ありませんよね。
一人ひとり、必要な配慮や対応は変わってきます。
まずは「なにかできることはありますか?」と、自分から積極的に声をかけていきながらコミュニケーションを取り合える社会にしていきたいですね。
【参考資料】