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土湯温泉と高湯温泉が東北初の「ゼロカーボンパーク」に認定!
両温泉町の脱炭素化&サステナブルな取り組みをご紹介
福島市では、2050年までに二酸化炭素排出量の実質ゼロを目指す「ゼロカーボンシティ」を2021年2月に表明し、脱炭素の取り組みを進めています。そんな中、2023年8月に土湯温泉と高湯温泉が東北初となる「ゼロカーボンパーク」に認定され、注目を集めています。
磐梯朝日国立公園(土湯温泉・高湯温泉)が東北で初めてゼロカーボンパークに登録されました(福島市HP)
この記事では、ゼロカーボンパークについて詳しくご説明するとともに、認定を受けた土湯温泉の関係団体に直撃インタビューを実施しました。
私たち福島市民はもとより、観光で両温泉を訪れる方にも知っていただきたい、温泉町が一体となったサステナブル(持続可能)な取り組み、ぜひご覧ください。
環境省が推進する「ゼロカーボンパーク」とは
ゼロカーボンパークとは、環境省が推進している脱炭素化の取り組みのひとつです。
環境省では、国立公園(※1)において先行して脱炭素化に取り組むエリアを「ゼロカーボンパーク」として推進しています。
ゼロカーボンパークとは、国立公園における電気自動車等の活用、国立公園に立地する利用施設における再生可能エネルギーの活用、地産地消等の取組を進めることで、国立公園の脱炭素化を目指すとともに、脱プラスチックも含めてサステナブル観光地づくりを実現していくエリアです。
環境省Webサイトより引用
※1 日本を代表する風景地として自然公園法に基づいて国が指定する公園で、全国に34か所あります。
磐梯朝日国立公園は、福島県・山形県・新潟県にまたがる日本で2番目に大きな国立公園。磐梯朝日国立公園の一部であり、福島市西部の吾妻連峰の東裾野に位置する「土湯温泉」 と「高湯温泉」の脱炭素化への取り組みがふさわしいとして、全国12番目・東北では初となるゼロカーボンパーク認定を受けました。
再生可能エネルギーを活用する土湯温泉の取り組み
土湯温泉町は人口約300人、世帯数約160の小さな町。国立公園ならではの自然環境や文化を活かし、サステナブルな温泉観光地を目指すため「土湯アクション20-25」による取り組みを推進し、保養温泉地としての魅力向上を図っています。
【土湯温泉の脱炭素に向けた主な取り組み】
・温泉熱を利用したバイナリー発電施設、砂防堰堤を利用した小水力発電施設を整備
・各種補助金を活用した温泉旅館への省エネ機器の導入
・バイナリー発電の冷却水と温泉熱を再利用して養殖した「つちゆ湯愛(ゆめ)エビ」の釣り体験実施
・旅館のプラスチック製品アメニティの竹製品へ切り替え、有料化実施によるワンウェイプラスチックの削減
・観光客へのマイバック、マイボトル利用の推奨によるプラスチックゴミの削減
・自然体験の場として春から秋には「女沼」にてSUP・カヤック体験、冬は「土湯峠地区」にて雪山体験を実施
土湯温泉がゼロカーボンパーク認定に至るまで
土湯温泉町では具体的にどのような取り組みをしていたのでしょうか?
町内で再生可能エネルギー事業を展開する「株式会社元気アップつちゆ」の佐久間富雄さんと、日帰り温泉施設「御とめ湯り」の運営母体である「HEART計画株式会社」の佐藤広明さんに、ゼロカーボンパーク認定の経緯を伺いました。
——ゼロカーボンパーク認定までの経緯を教えてください
佐久間さん:
2011年の東日本大震災以降、風評被害により土湯温泉町の客足は減少しました。廃業する旅館や施設も少なくない中、「この土地にあるものを使って、自分たちで何とかしよう」と、再生可能エネルギー事業にいち早く取り組み始めました。
具体的には、土湯温泉の熱エネルギーを利用した「温泉熱(バイナリー)発電事業」や、町の中心を流れる一級河川である荒川の水の勢いを利用した「水力発電事業」、発電に利用した温泉熱や冷却水を再利用した「オニテナガエビ義殖事業」などです。
福島市から「震災以降、土湯温泉が取り組んできたことは、ゼロカーボンパークにふさわしいのでは?」と声をかけてもらったことがきっかけとなり、登録・認定に至りました。
——町が一体となって取り組みを進めていたのですね。
佐久間さん:
震災後は町全体で一致団結しないと温泉町として存続が難しい状況でしたので、もともと意識の高い町民が多かったのです。
土湯温泉は山間部なので、地産地消が当たり前。地域の特性を生かしたエネルギーや自然のものを活用したり、「体の外からも内からもきれいになろう」と発酵食品を開発したりと、サステナブルな意識が醸成されていました。
また、多くの宿で若い経営者へ代替わりも進んでおり、町の運営会議に参加しているのは40代の若手中心。新しい技術を取り入れることに抵抗がないことも大きかったと思います。
協力してもらっている事業者の一つが「御とめ湯り」です。
——御とめ湯りではどんな取り組みを?
佐藤さん:
2022年1月から無料のプラスチックアメニティの配布をやめ、有料の竹製アメニティの販売に切り替えました。無料配布から販売に切り替えたことで大幅なコストカットになり、収益も上がり、サービスに還元できるようになっています。
コロナ禍でエネルギー価格が高騰しはじめ、2022年4月には事業者がプラスチック削減に取り組まなければならない法律(※2)も制定されました。「世界的に脱プラスチックの流れになっていくだろう」と予想できたため、早い段階で切り替えを始めました。
※2 プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律(2021年6月公布、2022年4月1日施行)
環境省|プラスチック資源循環
——お客様の反応はいかがでしたか?
佐藤さん:
御とめ湯りは宿泊もできますが、日帰りリピーターのお客様がほとんどです。ていねいに説明することで納得していただき「必要なアメニティは持参しよう」という意識がお客様にも浸透していきました。「お土産としてかわいいからまとめて買っていくわ」とたくさん購入してくださるお客様もいらっしゃいます。現状、かみそりだけは使い捨てですが、刃の部分も別売りで取り換えられるよう視野に入れています。
この取り組みが町に浸透すれば地域ブランディングになり、海外の環境保護に対する意識の高いお客様からも土湯温泉を宿泊地として選んでもらえるようになるのではと期待しています。
——認定を受けてのお気持ちは?
佐久間さん:
名誉なことで、ありがたいと思っています。これまで土湯温泉町内の各組織や施設が個別に行っていた取り組みが実を結び、町全体として評価してもらえたのだと感じています。
ここがゴールではなく、これからも取り組みを前進させていきます。
“ありのまま”を大事にする高湯温泉の取り組み
高湯温泉は江戸時代から400年続く、全国でも希少な酸性泉の温泉。2010年6月には東北で初、全国で9番目となる「源泉かけ流し宣言」を行いました。
また「じゃらん人気温泉地ランキング2024」の満足度ランキング総合部門で、3年ぶりの1位に輝いています。
温泉街すべての浴槽が自然湧出に加えて、機械による汲み上げをせず源泉から各旅館まで自然の地形を活かした自然流下で引湯しています。手を加えず温泉を提供することは、燃料や電気などの消費がまったくないということ。「源泉かけ流し」そのものがゼロカーボンの取り組みと言えます。
【高湯温泉の脱炭素に向けた主な取り組み】
・高湯温泉旅館の廃湯を利用した「無散水消雪道路」の整備
・自然湧出、自然流下によるサステナブルな温泉利用
・源泉の仕組みや効能を学ぶ機会創出
高湯温泉の取り組みについてはこちらの記事もぜひご覧ください。
まとめ
東日本大震災やコロナ禍をきっかけに、再生可能エネルギー事業や脱炭素の取り組みを加速させた土湯温泉。かたや高湯温泉では、400年以上も変わらず自然の地形を活かした方法で温泉を守り続けています。
ぜひ両温泉を訪れた際には、ゼロカーボンパークに認められた取り組みにも注目してみてくださいね。