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【特集:ふくしまを盛り上げる人たち】Vol.5 信夫山研究会 会長 浦部博さん
再オープンした「信夫山ガイドセンター」から見えてくる福島人のルーツ
2023年10月7日(土)に1年半ぶりに再オープンした「信夫山ガイドセンター」。信夫山の見どころを伝える資料や展示、休憩所があるほか、月2回のペースで信夫山にまつわる伝説や史跡を学べるミニ講座も開講している憩いの場所です。
今回は、信夫山ガイドセンターをご紹介するとともに、そんな信夫山を50年以上に渡り研究している、信夫山研究会の会長・浦部博(うらべひろし)さんに、信夫山の魅力、信夫山への想い、そして信夫山の未来を伺いました。
「信夫山は、福島人にとってのルーツ」と話す浦部さん。その理由にも迫ってきましたよ。
目次
宝の山「信夫山」を知るガイドセンター
福島の市街地の真ん中にポツンと鎮座する標高275mの「信夫山(しのぶやま)」。東京タワーほどの高さの小さな山ではありますが、歴史は古く、平安時代に書かれた伊勢物語にその名を刻むほど昔から知られている山です。
そんな信夫山の山中にあるのが「信夫山ガイドセンター」です。
センター1階には、信夫山の歴史や信仰、史跡や伝説、自然など、信夫山に関する情報がいろいろと展示されています。
展示されている化石の中には、貝や魚の化石も!
なぜ山から海の生物の化石が発見されたのか、疑問ですよね。その理由は“信夫山は、実は山ではないから”なんだとか!
また“四十八石”と言われている奇石や巨岩の写真も展示されているのですが、それは山岳信仰の修験道として大きく栄えていた証の石たち。
開発とともに多くの石が失われてしまったそうですが、それでも半分程は現在も残っていて、一つひとつに伝説があります。
ほかにも信夫山を上から正確に俯瞰できる約1/2300の信夫山ジオラマや、信夫山に関する書物、資料をいろいろと見ることができます。
2階にはトイレと休憩スペース、屋上には展望スペースもあります。
そんな信夫山ガイドセンターですが、実はコロナ禍から1年半ほど休館が続いていました。
ですが2023年10月7日より、土日限定(10:00~14:00)で再オープン!
以前までの展示に加え、信夫山を知り尽くしたガイドによる「信夫山ミニ講座」を定期的(毎月第1、第3土曜日の10:15〜11:00)に開催するなど、これまでよりパワーアップして再始動しました。
取材に伺った10月14日は、信夫山研究会の会長・浦部博さんによるミニ講座開催日!
会場には、講座を目当てに来館した方や散策中の通りすがりの方など、20名ほどのお客さんが集まっていました。
この日の講座では、信夫山の見どころはもちろん“鎌倉時代から高品質な金鉱がとれる山だった話”、“戦時中は金鉱跡を一部利用した軍の秘密地下工場があった話”などを聞くことができ「え〜!知らなかった!」「どこにあるの?」「あそこか!」と、これまで何度も信夫山に足を運んできた人たちをも唸らせ、ワクワク・ドキドキさせる面白い話を聞くことができました。
87歳現役ガイド! 50年以上研究したからわかる信夫山の魅力
講座後、浦部さんにさらに深くお話を伺いました。
——現在はどのような活動をされているのですか?
現在は、信夫山関係の執筆をすることが多いですね。これまでにもWebサイトや情報誌に連載コラムを書いたり、信夫山ガイドマップや小冊子など、数多くの情報発信を続けてきました。ほかにも今日のように講座の講師や登山・散策ガイド、展示物の作成やお土産品などの開発もしています。“わらじい”の開発もしました!
——信夫山の観光キャラクター「わらじい」は浦部さんが生みの親なのですか?
そうですよ! 信夫山にふさわしいキャラクターがほしいと考えていたときに、信夫山頂上の羽黒神社に奉納されている「日本一の大わらじ」に注目し、地味なわらじを可愛いゆるキャラ「わらじい」に変身させてみました。
ちなみに、わらじいには羽黒護佐衛門藁介(はぐろごんざえもんわらすけ)という本名があるんですよ。
——87歳の現在も現役ガイドをされているのですか?
していますよ! 明日も以前テレビで放送して注目を集めた百低山コースを17名ほど連れて登る予定なんです。背中も曲がっていないし、まだまだやりますよ〜。
——浦部さんが感じる信夫山の魅力はどんなところですか?
まず街から車で5分ほどで登れて、東西南北すべてが見わたせる山なんて、よその街にはなかなかないです。
また、信夫山はただの自然の造形物だけではなく、歴史・民話・信仰・伝承など、どこを取っても歴史と物語があります。
その昔に皇后様と皇太子様が逃げてきた山であること、今でも謎めいた遺跡や神秘の奇石・巨岩がたくさん残っていること、黒沼神社は1350年の歴史があり東北で初めて「延喜式内」と認められた格式ある神社であること、となりのトトロのテーマ曲「さんぽ」は信夫山でできた歌であることなど、知れば知るほど凄い山なんです。
また昔話だけでなく、自然科学、地質学、生態系など、非常に多様性のある資産をもっているんですよ。
地元の人が愛する山へ。現状と課題
——今、信夫山にどのような課題を感じていますか?
いろいろとありますが、一つは人々の“信夫山離れ”です。特に若者は、花見と墓参りの場所という程度で、信夫山を知らない方が増えている印象です。
今でこそ信夫山公園は桜の名所となっていますが、これは明治32年に「信夫山を桜の名所にしよう」との呼びかけで町の有志の人たちがソメイヨシノを植えてくれたから。100年後の世代が楽しめるようにという、祖先からの贈り物だったのです。
私たちも、信夫山を将来に向けてどんなふうに捉え、組み立て、保全保護し、そして観光活用していくか……、というのは今後のテーマですね。
私の基本的な考え方は、自然博物館(=できるだけ人工の加工を加えないような保全保護)です。それを全体としてどうやっていくか、また周囲の人たちや市民の人たちにどうやって知ってもらうか。そういうことを考えています。
信夫山から世界へ! 信夫山の未来と展望
——今後はどのような活動を計画中なのですか?
一つは、インバウンドを視野に入れ、外国の人たちに信夫山の神秘、面白さを紹介したいと考えています。すでに一般社団法人手づくりマルシェの方と共同で、来年の3月までに外国語ガイドができる人を養成する取り組みを始めています。
ちなみに私も2回ほど外国の方を英語で案内した経験があるのですが、日本情緒と冒険感を楽しめる信夫山に、彼らは大絶賛でした。それをもっとシステム化して、信夫山の神秘、信仰などの日本独特のカルチャーやアドベンチャー、ネイチャーアドベンチャーなどを案内していけるようにしていきたいと考えています。
また今は、信夫山内で食べたり買ったりできる体制が整っていないので、総合的に整えていく必要もありますね。
——私たち市民にできることは何かありますか?
インバウンドの話をしましたが、大前提にあるのは、地元の人に愛される山にしていくこと。信夫山を愛してもらいたい……。だって愛してないと自慢できないですからね。信夫山の素晴らしさを地元の人が理解して、それが子ども達にも広がっていって、地域愛が広がっていったら嬉しいです。
再始動した信夫山ガイドセンターも、ここからがスタートという気持ちです。ここに来れば信夫山のすべてがわかる場所にするために、どんどん練り上げてグレードアップしていきます。ぜひ、信夫山の面白さを知りに来てください。
信夫山の未来は、一人ひとりの一歩から
87歳とは思えぬほどお元気で、エネルギッシュに活動しワクワクする未来を語ってくださった浦部さん。月2回のミニ講座では、浦部さんをはじめ信夫山を知り尽くしたガイドさんによる面白い信夫山話をさまざまな視点や角度から聞くことができます。
実は私も浦部さんに信夫山を教えてもらい、信夫山の魅力に取り憑かれた一人。県外から知り合いが来たら連れていくのが烏ヶ崎(からすがさき)で、ボーッとしたいときに行くのが座禅岩です。
温泉と果物のイメージが強い福島ですが、はるか昔から福島に住む人々が大切に育んできた唯一無二の存在「信夫山」こそ、福島のルーツ。
まずはぜひ、信夫山へ足を運び、その魅力と奥深さを体感してくださいね。