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果樹農家の1年を追えvol.4|収穫の喜びと厳しさから考える、持続可能な農業の実現

マイナスイオン・低農薬栽培の「マルショウ果樹園」から学ぶ

暑い暑い福島の夏! この季節は、くだもの王国ふくしまを代表する「桃」の収穫時期です。

これまで3回に渡って桃の果樹農家の1年を追い、桃栽培についてインタビューしてきましたが、いよいよ最終回。
今回は福島市飯坂町にある「マルショウ果樹園」にお邪魔し、代表の佐藤正之(さとうまさゆき)さんから、この時期の作業や現在の農家の想いを伺ってきました。

1年間の集大成として達成感や安心感が伺えた一方で、“持続可能な農業の実現”のための大きなハードルも痛感しました。
私たち消費者は、まず農業、農家の現状を知ることが必要不可欠です。

マイナスイオン栽培・低農薬栽培の「マルショウ果樹園」

マルショウ果樹園外観

マルショウ果樹園外観

福島市飯坂町に直売所を構える「マルショウ果樹園」。ご夫婦で経営しているアットホームな果樹園で、この時期は6品種の桃のほか、さくらんぼやりんごの果樹を栽培されています。

マルショウ果樹園の一番の特徴は、栽培方法! 実は佐藤さんは元々料理人で、提供するものの味にはこだわりを持っており、糖度が高く美味しいのはもちろん“できる限り安心・安全なものをつくりたい”と、マイナスイオン栽培や低農薬栽培で安心安全な美味しい果物作りに日々励んでいます。

また桃シーズンには、直売所内で「桃の食べ放題」を提供してくれています。
桃はお店の方がどんどん持ってきてくれて、好きな桃を選んで自分でナイフでむいて食べるスタイル。桃の選び方やむき方など、いろいろな知識を農家さん直伝で教えてもらえますので、贅沢な桃タイムとなりますよ。

マルショウ果樹園の詳細はこちら

1年の集大成! すべての苦労が報われる桃の「収穫」

前回まで ①まるせい果樹園にお邪魔し冬の重要作業「剪定」について、②フルーツファームカトウにお邪魔し春の重要作業「摘蕾(てきらい)」と「摘花」について、③あづま果樹園にお邪魔し初夏の重要作業「摘果」についてお話を伺ってきました。

最終回の今回は、1年の集大成「収穫」です。

マルショウ果樹園の代表、佐藤正之(さとうまさゆき)さん

お話を伺ったマルショウ果樹園の代表、佐藤正之(さとうまさゆき)さん

−−いよいよ桃の収穫時期ですね! 今年の出来はいかがですか?

今の時点までは順調です。でも毎年お伝えしているのですが、予想とは違うんですよ。自然相手なので、天気次第で結果は大きく変わります。

とにかく桃はとてもデリケートなので、少しの風や雨でも傷が付いてしまいます。今は順調でも明日雨が降ったら、実が水を吸いやわらかくて水っぽい桃になっちゃったり、色が出ないうちに桃が大きくなっちゃったり。

日々天候に左右されますので、気が抜けません。

−−収穫時期はどのようなスケジュールで1日を過ごしているのですか?

朝は日の出と共に収穫をスタートします。桃は温かくなるとやわらかくなってくるので、硬いうちに穫らないと手の跡がついてしまうんです。なのでとにかく明るくなれば穫り始めます。

収穫時間は、その日の量によりますね。実った分は全部穫ります。1日でも遅れるとやわらかくなって贈答用にできなくなってしまうんです。

収穫した後は、選別や箱詰めをし直売所で販売をしながら、贈答用の発送などをしています。

−−6つの品種を栽培されているとのことですが、一度に採れるんですか?

桃は品種で収穫時期が少しずつずれていくのですが、それぞれの収穫期間は10日から2週間ほどしかないんですよ。桃はほかの果樹と比べても成熟速度が早いので、待ったなしです。

収穫シーズンは雨だろうが台風だろうが関係なく、休みなしで皆さんに美味しい桃を食べてもらえるようがんばっています。

贈答用に箱詰めされた桃

贈答用に箱詰めされた桃

−−マイナスイオン栽培や低農薬栽培は、通常より大変なのでは?

そうですね、手間ひまは増えますね。農薬はかけてから大体10日で消えます。残っていても影響はないのですが、飲食店で食べ物を扱ってきた経歴がある自分としては、納得いくかたちで果物を出したいという想いがありました。

実は昔「無農薬の果物が食べたい」という消費者の方々の声を実現しようと、無農薬で作ったことがありました。そうすると安全に食べられますが、当たり前ですが虫に食われたり病気で黒くなったりするんです。
しかしそれらを実際にお客様の目の前に出すと、買ってくれないんですよね。それで1年間、収入がゼロになったことがありました。

現在は、農薬は使うけどできる限り少なく……と、農薬を中和させる今のやり方(マイナスイオン栽培)になりました。

−−収穫した桃はどのように選別するんですか?

大きくは贈答用かそれ以外かで選別し、それ以外を“家庭用”と呼んだり“規格外”と言ったりします。味は変わらず美味しくても、どうしても形や大きさ、傷などで贈答用には出せない桃が出てきます。そういう桃は価格を下げて家庭用として販売したり、うちは食べ放題をやっているので、そちらで出したりしています。

規格外にあたる桃たち

規格外にあたる桃たち

−−規格外の桃はどのくらいの割合で出るのですか?

変形を入れると、半分ほどは規格外に該当します。

−−半分ほどが規格外になるということは、つまりどういうことですか?

規格外にもいろいろなパターンがありますが、贈答用にならないということは市場価格がとても低くなってしまうので、経済的な損失が大きいですね。

昨今は肥料や燃料、箱や梱包材など、すべてが値上がりしていますし、削れるとしたら自分の人件費くらいです。また異常気象も増えていますし、いろいろなことが想像を上回り予測困難。これまで通りの栽培、経営、価格帯では本当に厳しく苦しい状況ですね。

梱包で使われる大量の箱や包装材

梱包で使われる大量の箱や包装材

−−人手不足や後継者不足を耳にしますが、いかがですか?

これからのハイシーズンは、毎年頼んでいるパートさんたちに協力してもらいながらやっていきます。ですが根本的な人手不足は大きな課題です。

これまで贈答品を購入いただいていたお客様の高齢化や若者のお中元離れもあり、贈答品のニーズが下がってきています。売上を上げるためにも道の駅で販売したい気持ちはあるのですが、そのためには売り子や箱詰めする人など、最低2名は必要になります。が、どうしても期間限定の働き口になってしまうので、なかなか人が見つかりません……。

一生懸命作っていても、それを販売する場所がなくなってきています。

後継者に関しても、そうですね……。今の状況だと跡を継いでくれとは言えません。未来があると言えないです。

−−果樹農業の未来をつくるために、私たち消費者はなにができるでしょうか?

そうですね、持続可能な果樹栽培を実現していくためには、まずは知ってもらうことが大切かと思います。
今回のように、一つの果物を収穫するまでにはどれだけの時間と労力と費用を費やしているかを知ってもらうだけでも違うかと。

雑草一つにしてもそうです。雑草を放置したら栄養や水分が果樹に行き渡らなくなったり、害虫や病気が広がったりしますので、美味しい桃はできません。なので機械やガソリンを買い、他の作業を調整して時間を作りながら雑草を刈ります。

庭の雑草刈りとは訳が違う広さですので、全体を刈り終わった頃にはもう最初に刈ったところの雑草は伸びてしまっています。これの繰り返しです。

収穫風景

収穫風景

ほかにも、桃は1本の木を植えてから売り物になるまで5年はかかります。そのあいだその木は無収入ですが、手間暇はかかります。また桃の木にも寿命があり(剪定や手入れによっても変わりますが)約20年。つまり実際に穫れるのは15年くらいです。
ですので、こっちがダメになったらこっちが穫れるように……と、常にいろいろなことを考え、計算し動いています。

果物を作るためには、予測できない自然を相手にしながらも、未来を見据えて準備をしていく。見えない努力の積み重ねがたくさんあるんです。

−−ここだけの話、消費者に言いにくいけど伝えたいことはありますか?

“美味しい桃を食べてもらいたい”という想いで、暑い日も寒い日も朝早くから自分の命をかけて育ています。なので「美味しい」と言って喜んでくれる姿を見るのは本当に嬉しいです。

一方で、お客様から「クズください」って言われたときは悲しくなります。私たちはクズを作っているわけじゃない。せめて「規格外」とか「家庭用」など、言葉を選んでもらえると嬉しいです。

消費者にかかっている「持続可能な農業」

収穫するその日まで、毎日天気との睨めっこで最後まで気が抜けない日々から生み出される、美味しい桃。

直売所に来たお客様が試食を美味しいと食べ嬉しそうに購入して帰る姿を見たとき、予約注文分を無事に発送できたとき、そんな一瞬が、農家さんの1年間の苦労が報われるとともに、幸せと安堵を噛み締める瞬間となります。

これまで手間暇かけて育ててきた桃が無事に出荷できるのは、本当に奇跡に近いものがあります。

手に取ってもらうために並々ならぬ努力を続けている生産者の皆さん。ですが、物価高騰、異常気象、高齢化、人手・後継者不足などの問題は、生産者の努力や工夫の範囲をとうに超えています。

この状況を作っている要因の一つである“消費者”がまず変わらないと、本当に国産の果物が食べられなくなってしまうかもしれない、いや、そんな未来がすぐ近くまで迫っているんだな……。これまで4か所の異なる果樹農家さんからお話を伺った私は、危機感を強く抱きました。

私自身はこれまで「1円でも安く、少しでもお得に」という思考で買い物をしてしまっていたのですが、その思考は“自分のことだけ” “目先のことだけ”を考えていたから。生産者側の立場から物事を見ていなかった、すべては無知から生まれた思考だなと感じました。

贈答用も規格外も、どちらも同じ桃です。
世の中が人々の個性を尊重する時代となってきたように、果物や野菜だって、形が歪だろうが見た目が悪かろうが、同じ対価が支払われることが理想ですよね。

自分の孫の世代、ひ孫、玄孫の世代……と、これから先も美味しい果物が食べられる“持続可能な農業の実現”には、私たち消費者がまず農業や農家の現状を知ることが必要不可欠なのだと強く感じました。

ふくしまピーチホリデイ! SDGsへの取り組み

7月〜9月の2か月間は、福島市のどこにいても気軽に桃を味わえる“ふくしまピーチホリデイ”が絶賛開催中ですが、実はこのイベントには「規格外の桃の付加価値化」という目的もある、福島の新しい取り組みでもあります。

これまでは、規格外の桃として破棄されたりタダ同然で市場に流出していた桃が、飲食店で美味しいメニューに変身! 美味しく楽しく桃を味わうことが、農家の方への支援やフードロス削減にもつながるイベントとなっているんですよ。

まずは身近なできること、どんどん行動していきましょう!

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