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果樹農家の1年を追え vol.3|桃の実をあえて捨てる「摘果」
フルーツ王国ふくしまを支える「あづま果樹園」から学ぶ
フルーツ王国ふくしま! 特に桃は“消費量が日本一”という桃大好き市民の胃袋を支えていたり、県外から桃を目当てに旅行にくる方々がいたりと、福島を支えてくれている果物です。
桃は7月から9月にかけて収穫時期を迎えますが、それ以外の時期、一体桃がどう育てられているのかをご存知ですか?
実は桃は、数ある果物の中でも“栽培が特に大変”といわれています。病害虫の多さや気象条件への敏感さ、適切な剪定や手入れなどが必要で、とても手間暇がかかる果物なのです。
今回はあづま果樹園さんへお邪魔し、初夏の桃栽培において重要な作業である “摘果(てきか)” についてお話を伺ってきました。
くだもの王国を支える「あづま果樹園」
福島市飯坂町にある「あづま果樹園」は、6月に収穫を迎えるさくらんぼを皮切りに、もも・なし・ぶどう・りんごと、多くの果物を約12町(36,000坪=東京ドーム2.5個分)にもおよぶ畑で、管理・栽培している果樹園です。
穫れたフルーツは直売所で販売しているほか、ジュースやスムージーなど加工品にして販売もされています。また観光果樹園として果物狩りも行っていて、フルーツ狩り体験を楽しみに全国からお客様が来る、くだもの王国福島を支えている果樹園です。
桃の「摘果」とは?
前回まで ①まるせい果樹園にお邪魔し冬の重要作業「剪定」と、②フルーツファームカトウにお邪魔し春の重要作業「摘蕾(てきらい)」と「摘花」についてのお話を伺ってきました。
3回目の今回は、その次の作業「摘果」。
教えてくださったのは、あづま果樹園 代表取締役の吾妻正一さんです。
––桃の摘果とは何ですか?
摘果(てきか)とは、一定期間成長した桃の実を選別し、適切な数に間引く作業のことをいいます。間引くことで一つひとつの桃にしっかり養分が行き渡り、品質が向上し、適切な大きさに育てることができます。
––具体的にはどのような作業ですか?
最初は、かたちの悪いものや傷ついた実、病害虫の被害にあった実や、成長が思わしくない実を落としていきます。良い実でも、隣同士が近すぎるとぶつかりあって傷や落下の原因になるので、これもどちらかを落とします。
そうやって考え、イメージしながら消去法で摘果していきます。
––今やっているのが、最後の間引き作業ですか?
この先も仕上げ摘果があります。(摘果の回数は農家さんによっても違いはあります)
このあと“硬核期”という、1週間〜10日ほど桃を触っちゃいけない期間がきます。触ってしまうと、ある程度大きくなってから生理落下してしまうんです。
なので桃の様子を見ながら摘果を進めていって、摘果中に硬核期に入ってしまったら、終わるまで待ってから再開します。
––これまで剪定・摘蕾・摘花と何回にも分けて間引き作業をしてこられたと思うのですが、なぜ分けるのですか?
例えば、最終的に5つくらいまで桃を実らせることができる枝があったとします。最初の摘蕾の段階で5つにしてしまうと、大きくもなるし美味しくもなるとは思うんですが、落下したり、鳥の被害にあったり、成長の段階で種が割れたり、病気になったり……、いろいろなことが考えられます。また昨年の雹被害のように、いつどんな災害が起こるかもわかりません。
ですので、成長や状況を見ながら元気な実を残していけるよう、段階的に間引きをしています。
2023年の桃の生育状況は?
––よく聞かれる質問かと思いますが、今年の生育状況はいかがですか?
最近もよく問い合わせをいただきますが「今のところ順調です。このまま何もなければ美味しい桃が穫れます」とお返事させていただいています。
昨年は雹被害で大打撃を受けてしまいましたが、雹が降る直前までは順調だったんです。あの1分間がなければ、昨年も本当にいい桃が穫れたんですよ。
––昨年も一昨年もあった遅霜による被害、今年は大丈夫ですか?
遅霜による桃の被害は、うちの果樹園ではありません。霜は降りましたが、そのときは桃は特に何もせず、梨と葡萄で火を焚いて空気を温める対策作業をしました。
––これから怖いのは何ですか?
雹、台風は怖いですね。昨年はとにかく雹の被害が大きく、大笹生周辺の桃畑ではまともに収穫できるものが限りなく少ない状態でした。
長雨も、病気が発生したり、今までいなかった虫や病原菌が増えたりすることもあって怖いですね。糖度が上がらなくなったり、水っぽくなってしまったりする原因にもなり、良いものが穫れにくくなってしまいます。
逆に雨が少ないと、今度は虫の発生が多くなったりもするのですが。
––5月27日からさくらんぼの収穫が始まると伺いました。桃の摘果とさくらんぼの収穫が重なるとスケジュールはハードですよね
そうですね、1年の中でも6月初旬が一番忙しいかもしれません。
––どのような作業が重なってくるんですか?
桃の摘果、さくらんぼの収穫のほか、葡萄の摘粒(粒を抜く作業)、直売所での販売や果物狩りがスタートします。消毒も10日に1回ありますし、そのほかにも果樹の生育状況を確認しながらやる仕事が多く、時期やタイミングをずらせない仕事がこの時期はいっぱいあります。
ここからりんごの収穫が終わる12月まではノンストップで走りますよ!
––農家を営んでいて大変なのはどんなところですか?
うちは栽培面積が広いので、従業員は社員、パートを含め17人ほどいます。果樹栽培は半年しか収入がないというのは、やはり大変な部分です。
年間を通して収入を得るために加工品を手がける方法もありますが、市内には加工場がないので、今はジュースを搾るのにも会津や山形に持って行っています。六次化(農家が加工品までを作ること)を進めるには、人員や人件費はもちろん、建屋や作業場、機械などいろいろなものが必要になり、膨大な初期投資がかかるのが大きな課題ですね。
また剪定など農家の作業は1〜2年で覚えられるようなものでもなく、やはり3〜4年はかかります。そんな中で、近年は異常気象といわれるような、暑かったり寒かったり、花が早かったり遅かったり……、毎年のように「今年おかしいよね?」という気候が続いています。
うちは今やっと社員たちだけでもできるようになってきていますが、農家の高齢化や後継者不足は切実な問題で、畑を手放す人をたくさん見てきています。
あなたの口に入る桃は、奇跡の桃
剪定作業で枝を切り落とし、摘蕾・摘花作業で7~8割ほどの蕾や花を落とし、摘果作業でまた大半の実を落とし……、こうした作業を経てようやく私たちの口に入る桃は、選び抜かれた、もはや“奇跡の桃”ですよね。
ですが、こうして1年かけてようやく育った桃でも、味は変わらないのに少し傷がついただけで価値が下がり、規格外として正規販売ができなくなってしまう現状があります。
桃の収穫が始まるまであと1ヵ月半ほど。今は順調でも、最後の最後まで何が起こるかわからない自然を相手に、日々奮闘されている農家さんには本当に頭が上がりません。
私たち消費者はまず、果物に対しての当たり前を一旦リセットし、商品として並んだ果物だけでなく、その過程にも目を向けていく必要性を改めて感じました。
福島の桃がこれからも長く潤い愛され続けるよう、まずは現状を知ることが初めの一歩ですね。
次回は、いよいよ桃の収穫についてご紹介します。お楽しみに!