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捨ててしまう桃の枝を活用! 福島の素材で染めたベッドスローでおもてなし
飯坂からエコでSDGsな取り組みをご紹介
以前の記事で “フルーツ王国ふくしま” を支える福島市内の桃農家さんが、収穫時期以外の冬〜春にかけて、次年度のために手入れや枝の剪定を行って忙しく過ごしていることをお伝えしました。
果樹農家の1年を追え vol.1|果樹農家の冬は? 桃の木「剪定」
その剪定枝(果樹栽培に不要となる枝)を草木染めの染料として活用し、飯坂温泉の旅館の客室用ベッドスローを作るというプロジェクトが進行しています。
ベッドスローの制作を担っているのが「工房おりをり」代表の鈴木美佐子さん。
「布は福島産のシルクを。染色液には福島の桃の剪定枝を。媒染液には歴史の感じられる『医王寺の乙和の椿』の枝葉の灰を。宿泊のお客様に、飯坂の素敵な歴史を知っていただくきっかけになってほしいです」という美佐子さんの願いが込められています。
この記事では、これまでは灰にして畑に撒くくらいしか活用する方法がなかった剪定枝を、どのようにして染料にし、ベッドスローができあがっていくかを詳しくレポートしていきます。
福島市も応援するSDGsへの取り組みの裏側をぜひご覧ください。
ベッドスローとは
ベッドの足元部分にかけられている細長い布。 欧米のライフスタイルで靴を履いたままベッドに寝転がってもベッドカバーが汚れないようにかけられているものですが、日本では主にインテリアのアクセントとして使われています。
ベッドスロープロジェクトの経緯
このプロジェクトをはじめたのは、飯坂町の温泉旅館や果樹園などが「飯坂や福島市を盛り上げよう」と出資して立ち上げた合同会社「ふくしまRISE」。
「ふくしまRISE」が注目したのが、毎年春に福島市で大量に発生する「桃の剪定枝」。
飯坂町内にも果樹園が多く、これまでは大量の剪定枝を灰にして畑に撒くくらいしか活用法がありませんでした。
そこで、飯坂町を拠点にさまざまな素材で草木染めをしている「工房おりをり」代表の鈴木美佐子さんに、剪定枝を染色に活用できないかを相談。桃の枝で染めた布でオリジナルのベッドスローを作り、飯坂温泉の旅館に採用しようというプロジェクトが始動したのです。
工房おりをり代表 鈴木美佐子さん
福島市飯坂町中野にある「染織工房おりをり」と、福島市大町にあるショップ「絹工房おりをり」の2拠点で、養蚕・糸つむぎ・染色・織り、各種ワークショップなどを展開。ショップでは福島の絹を使った洗顔パフ・ストール・マスクや羊毛クラフトを製作し販売している。
すべての工程を一貫して人の手で行い、技術と文化の継承に取り組む。養蚕の歴史や文化を守るため、子ども向けの体験会や講演活動も精力的に行っている。
美佐子さんの実践している桃の枝染めの流れをご紹介します。今回はシルクを染色する工程です。
※布によって工程は変わります。
染色前の作業開始から完成までは約1~2週間かかります。さらに「重ね染めの工程は、納得いくまで何度もくり返します」と美佐子さん。草木染めとはとても手間のかかる作業なのですね。
染色には水やお湯を大量に使うため、飯坂町中野の工房では井戸水を使用しています(今回はご自宅の作業場で撮影しました)。
【桃染め染色前の作業工程】
桃の剪定枝を1週間以上乾燥させ、細かくする
細かくした剪定枝をゆっくりと5回煮出し、染液を作る
椿の葉と枝を灰にして媒染液(ばいせんえき)を作り、濾過しておく
シルクは染色液で染色する前に、この媒染液に浸します。媒染液の働きは「発色」と「色の定着」。『医王寺の乙和の椿』の灰を使用しています。
媒染液の成分にはアルミ、鉄、銅などの種類があり、それぞれ染め上がりの色が全然違うのだそう。
「そこが草木染めの面白さです」と美佐子さん。
【絹織物の染色前の作業工程】灰汁練り
絹織物の下処理・灰汁練り
機械で織る布には油が付いているため、お湯に生地を入れて付着している糊や絹の不純物を取り除き、水ですすぎます。
そして、椿の灰で作った媒染液を火にかけ、シルクを入れ、頃合いを見て取り出したら再び水ですすぎます。
この一連の作業のことを「灰汁(あく)練り」と呼びます。
【染色工程】
染色液にシルクを投入、染色する
染色液を沸騰させないよう、70〜80度の温度を保ちながら染色していきます。
重ね染めをする
好みの色になるまで、媒染液→染色液→媒染液→染色液の工程を繰り返し、ゆっくりと染め上げていきます。
好みの色に染め上がったら、乾かしたあと、縫製してついに完成です。
完成品がこちら。やさしい色合いのベッドスローに仕上がりました。
美佐子さんの染色へのこだわり
美佐子さんは草木染めの本場インドへ赴き、2週間ほど草木染めを学びました。日常に草木染めが浸透しているインドの工程と比較すると、日本の工程はとても丁寧なんだそう。
「インドにはインドの、日本には日本の色があることを学びました」と美佐子さん。
化学染料についても学び、似たような色が出せることもわかっていますが、じっくりと時間をかけて自然の恵みで染色したものは、退色もゆっくりで独特の風合いが出ます。何度も染色を繰り返すことで生地も強くなり、生地そのものを長持ちさせることができるのだそう。
「伝統を受け継ぎ残していくのはとても大変なことですが、最近では当工房の取り組みに興味を持ってくださる若い方も増えていて嬉しいです。私が伝えられることを伝えていきたいですね」と、美佐子さんは笑顔を見せてくれました。
福島の歴史や文化を知るきっかけに
美佐子さんは当初、ベッドスローの素材をシルクではなく麻にする予定でした。麻は丈夫で種類も豊富。比較的安価で大量に手に入りやすい素材です。ですが「せっかく福島へ来てくれた方に、福島のことをたくさん知ってもらいたい」と思い直し、シルクを使うことにします。
福島市周辺地域は、江戸時代から養蚕業が盛んでした。良質な福島産のシルクは世界中で人気だったといいます。
戦後になって養蚕業が衰退すると、蚕(かいこ)農家は果樹栽培へと転換し、それが「くだもの王国ふくしま」の礎となった歴史があります。
福島産のシルク、福島を代表する桃の剪定枝、そして医王寺の枝葉の灰。これら福島の素材を使って手間ひまを惜しまずじっくりと染め上げられたベッドスローは、これから飯坂温泉の宿泊施設でたくさんのお客様をおもてなししてくれることでしょう。
工房おりをりの染め物は、将来的にはふるさと納税の返礼品として出品することも目指しています。
このベッドスロープロジェクトは、福島市の「周遊スポット魅力アップ支援事業」の一つです。これからも福島市ではSDGsへの取り組みとして、循環できる資源を活用するコラボレーション企画を実施して行く予定です。