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果樹農家の1年を追え vol.2|春先の重要作業「桃の摘蕾・摘花」
土壌にこだわった”吟壌フルーツ”を生み出す『フルーツファームカトウ』から学ぶ
フルーツ王国ふくしま! 特に桃は “消費量が日本一” という桃大好き市民の胃袋を支えていたり、県外から桃を目当てに旅行にくる方々がいたりと、福島を支えてくれている果物です。
桃は7月から9月にかけて収穫時期を迎えますが、それ以外の時期、一体桃がどう育てられているのかをご存知ですか?
実は桃は、数ある果物の中でも栽培が特に大変だといわれています。病害虫の多さや気象条件への敏感さ、適切な剪定や手入れなどが必要で、とても手間暇がかかる果物なのです。
今回はフルーツファームカトウさんへお邪魔して、春時期の桃栽培において重要な作業である“摘蕾(てきらい)”と“摘花(てきか)”を見学させていただきながらお話を伺ってきました。
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徹底したこだわりと信念を持つフルーツファームカトウ
福島市大笹生にある果樹園「フルーツファームカトウ」は、美味しい果樹には生きた土壌が欠かせないという信念のもと、化学肥料を一切使用せず、微生物の力で発酵させた肥料をつかった徹底した土壌づくりで、桃・さくらんぼ・りんご栽培をしている果樹農家です。
ここで採れた果物は「吟“壌”果実」として販売され、果物が本来持つポテンシャルが最大限に引き出された、一度食べたら忘れられない感動の果物として注目を集めています。
2021年にオープンしたフルーツファームカトウ直営の「PEACHMAN CAFE(ピーチマンカフェ)」は、そんな吟壌果実の魅力をさらに引き出したスイーツが食べられるカフェスペースのほか、一つの空間に果樹作業場、オフィスが共存したスペースとなっています。
また、2022年には「Peachman Academy」という生産者から学ぶファームツアーを開催するなど、生産者と消費者が充実したコミュニケーションを図れる場を提供してくださっている農園です。
選りすぐりの桃しか実らせないための摘蕾・摘花
前回は、まるせい果樹園にお邪魔し冬の重要作業「剪定」についてお伺いしましたが、今回はその次の作業「摘蕾・摘花」について学んでいきましょう。
教えてくださったのは、株式会社フルーツファームカトウ 代表取締役 加藤修一(かとうしゅういち)さんです。
–桃の摘蕾や摘花とは何ですか?
摘蕾(てきらい)は、桃の花芽(つぼみ)が形成される時期に、花芽を間引いて取り除く作業です。摘花(てきか)は、桃の花が咲き始めた時期に、花を間引いて取り除く作業のことを言います。
今年の福島市は桜の開花が観測史上最も早かったように、桃の花も一気に咲いてきてしまったので、摘蕾が間に合わなかったものも。うちは畑が点在していて10ヵ所くらいに分かれているので、大忙しで作業を進めています。
–摘蕾・摘花作業は何のために? やらなかった場合どうなるのですか?
摘蕾も摘花も、美味しい桃を作るための重要な作業です。
桃は、花が咲いた場所に実がなります。もし摘蕾や摘花の作業を行わなかったら、1本の木に大量の桃が実ることになります。
一見嬉しいことのように聞こえますが、それでは栄養が分散して一つひとつに行き届かず、小さな味のない桃になってしまいます。また桃が密集することで風通しが悪くなり、病害虫が発生しやすくもなります。
他にも過剰に実ることで重さで枝が折れたり、樹勢が弱まり翌年以降の収穫にも影響が出てきてしまいます。
–具体的には、何を考えどう判断しながら摘蕾・摘花をしていくんですか?
収穫時の桃はだいたい男性の拳くらいの大きさです。これが枝に実っていくわけですが、場所によっては枝にぶつかり傷がついて、良い桃がなりません。
また枝の場所によっても養分の流れで成長しやすい場所、しにくい場所があります。枝の長さや全体のバランスなどいろいろな部分を見ながら考え、大きくなる素質のあるものを残していきます。
ですが、この時期に全部間引いてしまうわけではありません。保険をかけておくことも必要です。
最初は荒めの摘蕾、摘花からスタートし、桃の成長に合わせながら仕上げ摘果、修正摘果と段階を踏んでいきます。
※摘果(てきか)は実を間引いて取り除く作業のこと。詳しくはvol.3でお届けします。
うちはだいたい葉っぱ60枚に1個実るようにと決めているので、イメージとしてはA4サイズの範囲に桃1個が採れる感じです。
–桃の品種によっても作業は変わったりしますか?
うちは10品種ほどを栽培していますが、品種によってもやり方を変えています。例えば花粉のない品種だとあまり花を取らなかったり。木の状態によっても、ちょっと多めに残しておくこともあります。
–ここ数年顕著に見られる異常気象に対しての取り組みなどありますか?
今の時期心配しているのは、昨年も一昨年もあった遅霜による被害ですね。遅霜が降りると花が凍傷になり受粉がうまくいかず実がならなかったり、新芽がダメージを受け木の成長が阻害されることもあります。
一昨年は遅霜の影響で、広い畑に5〜6個しか桃が実らなかった……という農家もありました。実がならないことにはどうすることもできません。一生懸命働いてくれている社員に給与も払えなくなってしまいます。昨年は雹被害もありましたが、あのときは全身の血の気が引きましたね。
そういう経験をしているので、教訓を活かしながらですね。今だと、遅霜対策の1つとして従来の2倍くらいの花芽を残しています。
最近、諸外国では収入補償を行うなど農業保護のニュースを見かけますが、日本はどんどん離農が進んでいます。周辺でも木を切ったり畑を手放す人が。国や地域全体で農業を守っていかないとまずいなという危機感はあります。
果樹は福島を支えてくれている宝、そして希望
前回の剪定作業でもだいぶ枝を切り落としていた印象がありましたが、今回も7〜8割ほどの蕾や花を落としていて、とても驚きました。
この後も、仕上げ摘果、修正摘果と収穫直前までまだまだ繰り返していくそうで、最終的に選び抜かれた桃がスーパーや直売所に並びます。つまり、私たち消費者の口へと入っていく桃は、最後まで生き残った強運の桃ということになります。開運フードですね!
繊細で、多少の傷があるだけで傷物扱いになってしまう桃は、果樹農家さんの1年、いや人生をかけて育ててくれている果物であり、当たり前に食べられるものではないということを、私たち福島市民こそ強く認識していたいことだなと感じました。
今回は、春の重要作業「摘蕾・摘花」について詳しく伺いましたが、もちろん作業はこれだけではありません。この他にも、さくらんぼ、りんごと栽培されているので、同時に他の果樹の摘蕾・摘花作業も行われています。また雑草も元気に伸びる時期ですが、土壌を本当に大切にされているので、もちろん除草剤などは使わず草刈りをされています。
こんなに手間暇かけても、一昨年は遅霜、昨年は雹による大きな被害を受け、収穫まで至らなかった果物がたくさんある現実。こうした厳しい背景から、果樹農家は人手不足・後継者不足が大きな課題となっており、離農を選択する人も後を絶たないそうです。
果樹は福島を支えてくれている宝であり、希望です。果樹農家が抱えている課題は、地域全体、社会全体の課題と捉え、解決していく必要性を強く感じました。
次回は、桃の摘果についてご紹介します。お楽しみに!