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果樹農家の1年を追え vol.1|果樹農家の冬は? 桃の木「剪定」
オフシーズンこそ忙しい、桃の栽培
フルーツ王国ふくしま! 特に桃は “消費量が日本一” という桃大好き市民を支えてくれている果物です。
7月から9月にかけて収穫時期を迎える桃ですが、果たしてそれ以外の時期、一体桃はどうなっているかご存知ですか?
今回は、そんな冬時期の果樹農家さんが今何をしているのかをインタビューしてきました。華やかさがある一方で、こんなご苦労を重ねているとは知らず……、これは福島市民の義務教育にしたいとさえ感じてしまいました。
実は今、果樹農家は人手不足・後継者不足が大きな課題となっており、離農を選択する人もいます。それに加え、異常気象、原油高騰。
果樹農家が抱えている課題は、地域全体、社会全体の課題として考えていく必要があるのではないでしょうか。
目次
福島の果樹を盛り上げる「まるせい果樹園」
今回お話を伺ったのは、福島市飯坂町にあるまるせい果樹園! さくらんぼ・もも・なし・りんご・ぶどう・かき・西洋梨と7種類のフルーツを約10ヘクタール(東京ドーム2個分)もの広い果樹畑で栽培していらっしゃいます。
また果樹栽培の他、季節のフルーツ狩り、果物直売、そして園内に併設している農家カフェ「森のガーデン」で畑で採れた果物をふんだんに使ったスイーツの提供など、福島の果樹を大きく盛り上げてくださっています。
今回は、そんなまるせい果樹園の代表の佐藤清一さんから、冬時期の桃の手入れ「剪定」をはじめ、年間サイクルや新たな取り組み、抱えている課題などを伺ってきました。
冬の間も忙しい、桃農家の1年のサイクル
まず、まるせい果樹園の桃栽培における1年間のサイクルをお伺いしたものを図にまとめてみました。
ひと言で桃といっても、まるせい果樹園で育てている品種は20種類もあります。 30ヵ所ほどに分かれている畑の区画におよそ1,000本以上の桃の木が! 7月上旬から始まる収穫に向けて、育成状況を見ながら1本1本ていねいに愛情を込めて、冬季も毎日忙しくお世話をされています。
まるせい果樹園は、桃以外にも7種類のフルーツを育てており、これを10人程(収穫時期の繁忙期は20人程)で作業するというから驚きです。
「順番に回って戻ってきた頃には、あっという間に成長してるんです。栽培は、準備と片付けの繰り返しですね」と佐藤さん。
品種ごとの収穫リミットはわずか2週間
まず、桃の収穫についてお伺いしました。
–桃の収穫時期はいつ頃ですか?
うちの桃は7月上旬〜9月中旬頃まで収穫時期を迎えますが、実は品種ごとの収穫期間は 10日〜2週間程度しかないんです。
例えば、うちで一番最初に採れる品種「はつひめ」。温暖化や冷夏など、その年によって収穫開始時期は多少前後しますが、収穫がスタートしたら桃の生育に合わせた収穫が必要になります。育ちすぎると、桃が落ちたり熟しすぎてダメになったり、美味しい状態で食べていただくことができないんです。
うちは20種類ほど桃の品種を育てていますが、1つの品種が収穫時期を終える(2週間経つ)前に次の品種が重なって出てくるように、品種の構成を考えて栽培しています。
–1年のうち、2週間以外は全て準備期間ということですか?
品種でいうと、そういうことになりますね。
桃の木にも寿命があって。25年、 30年になってしまうと木が老いて、美味しい桃を収穫し続けるのはもう厳しくなってしまいます。なので、植え替えをしながら桃栽培をやっていくようになります。
桃栗3年というだけあって、本当に植えてから3年目で桃が実ります。ですがまだ幼木なので、実の重みで枝が下がり樹形が崩れて木がダメになってしまうことが。
美味しい桃を収穫できるよう3年で実らせることはせず、あえて5年くらいかけて木の形を作り、それから収穫するようになります。
また、今ある土地をフルで収穫に使ってしまうと10年、25年後は全てダメになってしまいます。
毎年安定した桃の収穫がいつまでもできるよう、先を見据え、計画的に考えながら準備を進めています。
桃の一生を決める「剪定」は冬季の重要作業
–今の時期はどのような作業をされているのですか?
葉が落葉し、木が休まる時期の12月上〜中旬頃(りんごの忙しい時期が終わる頃)から、桃の木を健康に保つために “剪定” という作業をしています。美味しい桃ができるように、枝を切り取って木の形を整え、葉や実ができたときに空気や光が木全体に行き渡るような樹形づくりですね。
余分な枝をカットするのですが、具体的には
- 大きい枝の間引き
- 小枝の剪定
- 古い枝や枯れた枝の剪定
- 桃がなる予定の枝の調整
などをしています。
–剪定作業は桃にどのような影響があるんですか?
剪定作業をしないと風通しや日当たりが悪くなり、虫や病気の巣になってしまいますし、美味しい果物が収穫できません。
だからといって枝を無闇に切ったり、切りすぎたりしまうと、反発して伸びて欲しくないほうに枝が伸びるなどマイナスに働き、美味しい桃を作るどころか、桃が実るか実らないかの話にもなります。
今年の果物の出来具合が変わるのはもちろん、来年の桃の栽培にも関わってきますし、さらには桃の木の一生に関わってくる重要な作業です。
–葉や実がない状態から、イメージして剪定しているということですよね
もちろんです。
残したい枝を残すために、木や枝全体を確認しながら考え抜き、ていねいに剪定していく必要があります。
今のコンディションを見てあげて、それに合った管理をしてあげることが大事ですね。1つ1つの作業全てが重要ですが、果樹栽培の中でも職人的な部分が一番強いのがこの剪定作業ですね。
剪定後の枝を活かす新たな取り組み
–剪定した枝はどうなるんですか?
まず、ただ枝を落としただけだと持ち運びが大変で片付けられません。落としたら持ち運べるようもう一度コンパクトに切って整理をし、それから集め作業に入ります。集めた枝は膨大な量ですので、炭化機で炭化させ、それを畑に栄養として撒いて戻すということをしています。
また最近は、この資源を他にも活用ができないか模索中です。
良い枝を残すために剪定した枝ですが、枝にはたっぷりと蕾をつけ、しっかり花を咲かせる準備をしています。
先日はこの枝を使って絹工房おりをりさんが草木染めに挑戦してくださいました。春を待ち望んでいた桃の枝が蓄えていたエネルギーがどんな色に染まったのか、楽しみです。
そのように、福島の資源をいろいろと活用していただけけたら最高だなと、思いながらいるところです。
果樹農家が直面するさまざまな課題
–今、果樹農家はどのような課題と向き合われていますか?
農家全般的に、異常気象や燃料の高騰、温暖化や後継者や人手不足など、抱えている課題はたくさんあるかと思います。
昨年は雹被害で果樹が傷付き規格品としての価値が下がりましたし、予測できない異常気象にこれからも向き合い対応していかなければなりません。
温暖化にも大きな危機感を持っています。収穫時期が早まるのはもちろん、今後、産地の移動も出てくると思います。例えばりんごは、どんどん作れる場所が北上していっています。つまり、この辺でみかんが作れるようになる可能性も出てきますよね。
また2019年の厚生労働省の調べでは、10年前と比べて1割以上果物の摂取量が下がったと言われているように、日本人の果物離れもとても危惧しています。カフェ(併設している森のガーデン)を始めたのも、それがきっかけの1つです。
–日本人の果物離れと、カフェの開業はどう関係しているのですか?
現代は、忙しい日々で時間のない人が多く、簡単に食べられる加工食品や外食産業の利用が手軽で便利ですよね。
果物の最大のライバルはスナック菓子だと思っているのですが、そのような菓子類とどう戦うか。どうやったら、手軽に食べ、美味しいと感じ、好きになってもらえるのか……。いろいろ考えた先に、森のガーデンがありました。
果物たっぷりのデザートを気軽に食べに来てもらって「美味しいな〜」って感じてもらえたら、この果物を自分でも買って食べてみようかなって思ってもらえたら最高だな、という発想もあって始めました。
常にさまざまな危機感を持ちながら頑張っているのですが、現実を受け入れ「じゃあどうしていこうか?」「こう工夫したらどうだろう?」と考え、話し合いながらやらせていただいています。
たくさん失敗もしてきていますが、そこから学び、いい方向に変わっていきたいですね。
今を守るんじゃなくて、需要を生み出し、魅力を作り出していけたらと考えています。
一時は農家をやめることを考えた日も
–私たち消費者に、何かできることはありますか?
こうして桃農家のことや収穫以外の部分も知ろうとしてくださること、本当にありがたいですし、私達としては、やっぱり果物を食べて美味しいねって笑顔になってもらうことが最高の喜びですね。
うちは直売所や果物狩りもやっていますが、目指しているのは気軽に遊びに来れる果樹公園! ハート型の池や川もあるんですよ!こ こに蛍を住みつけたいな〜と。
遊びに来てもらったときに「楽しいね!」「来てよかった!」「今度は家族を連れて来ようね!」って言って笑顔になってもらえると嬉しいですし「福島って楽しいところだね!」という印象を持ってもらえたら本当に最高ですね。福島代表の一人と思いながらやらせてもらってます。
–どうしてそんなにエネルギッシュで消費者への想いが溢れているのですか?
ん〜。“笑顔” って前からすごく大事だと思ってやってきていたんですが、震災はやはり大きなきっかけでしたし、考え方が変わったんじゃないかなと思います。あの頃は、笑っちゃダメなんじゃねえかなっていう雰囲気すらあって。農家をやめようと本気で考えました。
でもそんなときに、応援してくださった方がいっぱいいて。いわゆる “他人” なのに。絆ってこういうことなんだなって、人の温かさをすごく教えていただきました。そんな中で、やっぱり笑顔って大事だなっていうのを再認識して、今に至る感じですかね。本当にありがたいです。
桃栽培についての知識を福島市民の義務教育にしたい
農家の方が抱える課題を知ること
福島を支えてくれている桃。
夏になると形の整った綺麗な桃がスーパーに並んでいる光景を当たり前と捉えていた私としては、正直知らないことの多さに、恥ずかしさが込み上げてきました。と同時に、農家さんへの感謝や、美味しい果物が食べられる幸せをとても感じました。
ですが、農家さんが抱えている課題や背負っている負担はとても大きく、農業を辞めていく方、自分の代で終わりを決めている方が急増しています。
今回は桃栽培の冬場の作業のほんの一部をお伝えしましたが、他の果物の剪定作業もすべて冬時期の作業で、寒い中でも忙しい日々です。
美味しい果物が、こうした一つひとつの工程を経て口に入っているのだということを、私たち消費者は理解できているでしょうか?
こんなに手間ひまをかけ一生懸命育てられても、ほんの少し傷がつけば売り物にならなかったり、価格を下げての販売になってしまう現状があります。
昨年のように、1年間大切に大切に時間とお金と愛情を注いで育ててきた果物が、ほんの一瞬の雹のせいで売り物にならなくなってしまう現実を、私たち消費者はどれだけ理解できているでしょうか?
今こそ本当に消費者側の認識を変える必要があるのではないか……、くだもの王国を謳っている福島市として、義務教育にしてほしいなと、強く思いました。
消費者側にも認識の変化が
そんな中、少しずつ、でも確実に、認識の変化も生まれています。
昨年は、雹害を受け傷ついた桃を、市内のさまざまな店舗が素敵で美味しい料理やスイーツに変身させたピーチホリデイ2022が開催され、県内外を問わず多くの方々を福島の桃の虜にしました!
福島の桃がこれからも長く潤い愛され続けるよう、まずは現状を知ることから始めていただければ嬉しいです。