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期待と注目を集める福島市初のワイナリー「ワイナリー吾妻山麓」ができるまで
果樹王国福島で「喜びの酒」を造りたい
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目次
福島市初のワイナリー Winery Azuma Sanroku
2019年8月、あづま総合運動公園から車で5分、高湯温泉街道の手前、吾妻山の麓にWinery Azuma Sanroku(株式会社吾妻山麓醸造所)がオープンしました。福島市では初のワイナリーです。
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Winery Azuma Sanroku(株式会社吾妻山麓醸造所)
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醸造用のステンレスタンクが並ぶ
代表の横山 泰仁(よこやま・やすひと)社長は、前職で医師と接することが多く、食事などに同席すると決まってワイン。お付き合いするにしても少しは知っておいた方がよいだろうと、ワインに関心を持つようになったそうです。さらに、研修旅行で訪れたヨーロッパでは、ワイン文化が普段の暮らしに根づいており、ワインを囲み人々が楽しく食事や会話をする光景が印象的だったといいます。そして、それは「ワインは人と人とをつなぐもの」と感じた瞬間でした。
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福島市のイタリアンレストラン Aoyagiにて開催したメーカーズディナー
その後、本格的にワイン用ブドウの栽培や醸造を学び、定年退職を機にワイナリーを設立。ちょうどその頃、福島は東日本大震災の影響で人々の心は沈み、かつての街の賑わいは跡形もありませんでした。「街に賑わいを取り戻したい、人々の心に明るい光を灯したい」そんな想いと重なるように、横山社長の脳裏にはヨーロッパでの感動が蘇ります。しかし、ワイナリー経営はそう簡単ではありません。栽培もさることながら、醸造という専門分野を素人がやるにはあまりにもリスキー。そして、いわゆる6次化商品ではなく、本格的なワインを、福島を誇れるワインを造りたい。横山社長はワイン醸造の専門技術者を求めて、ワイン関係者への協力を仰ぎました。
しばらくすると、一人の醸造家の紹介を受けました。それが、現在ワイナリーで醸造を担当し、エノログの資格を持つ牧野 修治さんです。
ワイン醸造技師資格者(エノログ)との出会い
牧野さんはカルフォルニア大学でワイン用ブドウ栽培と醸造を学び、ワイン醸造技師資格(エノログ)を取得。山梨県のワイナリーや大手ワインメーカーで12年間の勤務経験を持つ、まさしくワイン醸造のプロでした。それほどの人が果たして新設したワイナリーに来てくれるのか、まったく勝算はありませんでした。
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左:牧野 修治さん(醸造部長・ワイン醸造技術管理士 エノログ)/ 右:横山 泰仁さん( 代表取締役)
しかし、横山社長の想いに牧野さんは共感する部分が非常に大きかったといいます。
「僕は、これまでもワイン造りに関わってきましたが、やはり自分が想うワイン造りをしたい。それは『喜びの酒』なんです。落ち込んだ時や寂しい時に飲む酒というのもありますが、僕は喜びの酒を造りたい。笑顔の向こうに僕の造ったワインが並んでいる・・・それが夢です」と。
仙台市出身の牧野さん。被災地の悲惨な状況にさぞかし心を痛めていたことでしょう。長年描いていた自分の夢に向かってやるならここだと、単身福島へ。横山社長との二人三脚が始まりました。
モチーフは吾妻山の種蒔きうさぎ
Winery Azuma Sanrokuのロゴを見てください。うさぎを模したデザインにお気づきでしょうか。早春の吾妻山に姿を現す「種蒔きうさぎ」にちなんだものです。この種蒔きうさぎは春の訪れを告げるものであり、農繁期のはじまりを意味します。
また、うさぎの長い耳は、情報収集力に長けている証拠。情報キャッチする=幸福や繁栄をもたらすとして縁起が良いことから、ワインのエチケットにも取り入れています。
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2021年にリリースしたばかりのマスカット・ベーリーA ロゼ
「福島ワイン」が誕生するまであと少し
自社畑には、メルロー、プティ・ヴェルド、シラー、タナ、シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブラン、アルバリーニョなどの国際品種を中心に2020年に植樹しました。ブドウは実をつけるまで3~4年かかるため、現在は、山形県や長野県産のワイン用ブドウを買い付け、醸造しています。
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瓶詰めマシーンはイタリア製
2020年にリリースした「メルロー ロゼ」、「シャルドネ」は既に完売。2021年の新酒として「デラウエア」と「マスカット・ベーリーA」をリリースしました。先日、「マスカット・ベーリーAロゼ」も瓶詰し、あとはエチケット(ワインのラベル)を貼るばかりとか。来年にはフレンチオークで熟成した「メルロー」もリリースを控えており、牧野エノログの腕が光る1本に期待がかかります。
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シードル用の福島市産りんご(つがる)
また、「ふくしまシードル」は福島市産りんごを100%使用。エチケットは地元、福島西高校デザイン学科の学生が制作しました。
最初は制作された中から1つを選ぶ予定でしたが、学生の素直な心と個性豊かなエチケットを1つに絞るのはもったいない、全部違ってもいいじゃないかと2020年のふくしまシードルは12のエチケットが揃いました。彼女らがシードルを飲めるのは数年後ですが、そのことさえ、このエチケットに込めた学生たちの想いが未来に続いているような気がします。
オール福島のワインが誕生するのはもう少し先ですが、それも含めて、楽しみでなりません。
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福島西高校デザイン学科の学生たちによるシードルのエチケット(ラベル)
福島を誇れるワイン造りを目指して
「おいしいワインは世の中にたくさんあります。その中でも福島を物語る、そんなワインを造りたい」と、福島の個性やポテンシャルを表現するワイン造りを目指し、横山社長、牧野エノログは奮闘する毎日ですが、ワイナリーを起点に地域振興への取り組みにも積極的です。圃場からの眺めは福島市を一望できるビュースポット。周辺は土湯温泉や高湯温泉も近く、宿泊客がふらっとワイナリーに立ち寄ることも多いとか。
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福島市を一望できるビュースポット
カフェやショップ、ドッグランの建設も構想中だそう。ワインやコーヒーを飲みながら、福島の四季を感じ、訪れた人が心癒されるような場所にしたいそうです。また、将来的にはワイン用ブドウなどの契約栽培農家を育て、年々減少する果樹農家の後継者問題の一助となるよう、新規就農や移住・定住者の斡旋も視野に入れています。
果樹大国・福島、その最たる福島市に誕生したワイナリー。その挑戦はまだスタートラインに立ったばかりですが、注目に値するワイナリーであることは間違いありません。
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知る人ぞ知る「エビフライの木」のすぐ近くにワイナリーがあります